Shocking☆LOVE 4話目

「ホワイトデー」

今日は三月十四日、日曜日。
怒涛の期末試験も終わり、学校もなく、部活もなく。
加えて、春の気配を感じさせるほどに暖かく、いい天気。
ベッドでごろごろと惰眠を貪っていても、誰にも文句を言われない。
そう、それはそれは穏やかな休日……。
「ゆーきー!! 」
叫び声と同時に、バンッと勢いよく――そりゃもう扉が壊れるんじゃないかと思う程勢いよく、
俺の部屋の扉を開けたのは、幼馴染兼俺の彼女の本村鈴だ。
(あぁ、穏やかな休日終わった……)
そんなことを思いながら、のっそりとベッドの上に体を起こす。
「おはよ、鈴」
「『おはよ』じゃなーい! 」
鈴は誰にでも愛想がいいし、人当たりも良い。
素直で可愛げがある奴なんだが、俺にはどうも怒りっぽい。
こうして、俺の部屋に怒鳴りこんでくることもよくあることだ。
「朝から何?まだ九時じゃん」
ベッドヘッドにある時計をちらりと見ながら、思い切りよく伸びをする。
朝から鈴が来る事なんてしょっちゅうだし、大して慌てることじゃない。
長い付き合いだし、慣れたものだ。
「祐樹。今日何月何日? 」
「あ?三月十四日」
「そう!今日は何の日!? 」
扉辺りにいたはずの鈴は、いつの間にやらベッドまで来ていて、
ベッドに四つん這いになって、ぐいと俺の方に顔を向けている。
いや、その体勢はなんかよろしくない。非常によろしくない。
(胸見えてるし……)
「鈴。とりあえず座れ」
「いいから答えて! 」
「いいから座れ」
「なんで? 」
「胸見えてる」
一応、顔を明後日の方へ向けてぼそりと呟くと、
鈴は小さく悲鳴を上げて慌てて座りなおしている。
「えっち!変態! 」
「いや、今の俺悪くないだろ!で、朝からどうしたの? 」
鈴はぎろりと俺を睨むと、勢いよくしゃべりだした。
いや、しゃべるというよりは、叫び出したと言った方が正しい位の勢いで俺に言葉をぶつけてきた。
「今日は何の日?ねぇ一体何の日だと思う?私ら付き合ってどれくらい?ていうか、私達これ付き合ってんの?今までと変わらなくない?もう一ヶ月だよ?一ヶ月間なんの進展もないっておかしくない?初めてのホワイトデーなのに、何もないとかおかしくない?ねぇ、これどうなってんの? 」
一気にわっとしゃべって、叫び過ぎたのか勢いつけすぎたのか、
鈴の息が荒い。
(ホワイトデーねぇ……)
「とりあえず落ち着け」
ぺしっと軽く鈴の額を小突くと、鈴は恨めしそうに俺を睨んでくる。
確かに、付き合って一ヶ月。
いや、バレンタインデーに告白されて数日後に返事をしているので、
正確にはまだ一ヶ月経ってないんだが、とにかくその一ヶ月これといっていつもと変わっていない。
今までと同じように、朝一緒に学校に通い、一緒に帰宅。
あとやっていた事といえば、休日に一緒に試験勉強した位で確かに何もない。
まぁ、時々鈴にねだられたり、自分からしたくなったりしてキスした位はあったかな?
黙ったまま記憶を回想中の俺の頭を今度は鈴が小突く。
「いって」
いや小突くというより、こいつ思い切りひっぱたきやがった。
「なんとか言いなさいよ! 」
鈴は相変わらず怒り心頭と言った感じで、俺を睨んでいる。
「いや、キスはしたしちゃんと恋人じゃん?」
「それ付き合った初日からしてるじゃん。進展じゃないし」
「うっ……」
そう言われると、確かに何も進展していない。
好きだと言ったのだって、返事したときだけだし。
いや、それは鈴も同じ気がする。
「お前だって別に『好き』とかいう訳じゃないし、変わってなくね? 」
「私がそんなしょっちゅう『好き』とかいうタイプに見える? 」
「そりゃお互い様だろ」
「うぅ……そりゃ、そうかもしれないけど」
怒り心頭と言わんばかりだった鈴は、今度はしょんぼりと落ち込み始めた。
(本当、表情ころころ変わるなぁ。まぁ、そこが可愛いんだけども)
「で、お前は結局何に一番怒ってるの?」
しょんぼりしている鈴の頭を撫でながら、本題を確認する。
色々言われてるけど、進展がない事についてはお互い様な感じがするし、
なんとなくそれに怒っている訳ではない気がする。
なんとなく、だけど。
「今日ホワイトデーなんだけど」
「そうだな」
「それだけ? 」
「ん?何が? 」
「バレンタインにチョコあげたじゃん」
「俺もあげたじゃん。ちょっと遅れたけど」
「……」
「……」
お互い黙ってしまって、なんとなく気まずい空気が流れる。
しばらくすると、鈴は大きく溜息をついて、
俺の横に来るようにごろりとベッドに寝転がった。
「はぁ……そうだよね、祐樹ってそういう奴だよね」
鈴はうだうだとベッドに転がりながら、俺のTシャツを引っ張ってくる。
これもいつものこと――というか、よくあることなんだが、
付き合いだした今、止めて欲しいと思うのは俺だけだろうか。
(付き合いだしたら急に女に見えるから不思議だよなぁ)
寝転がった鈴の頭を撫でたり、髪を梳いてみたりしながら、なんとなく時間を過ごす。
「ねぇ、ホワイトデーだよ?お返しは? 」
拗ねたように頬を膨らませて、鈴が俺を見上げる。
「じゃ、デートでも行くか。クレープでもおごってやろう」
拗ねて膨らんだままの鈴の頬を指でつつきながら、答える。
「何その上から目線」
「いつものその辺の飴よりは進展してるだろ」
そう言いながら、なんとなく鈴の頬にキスをする。
途端に鈴は顔を赤くして、がばっと起き上がる。
それから、顔を隠すように髪をいじったりして、照れ隠ししている。
キスするだけでこうなのに、その先進もうなんて思えないのは俺だけだろうか。
(進展と言われてもねぇ)
元々、ほぼ毎日一緒に過ごしている訳で。
これ以上の進展というのも、中々難しいというのが俺の言い分だ。
「ほら、着替えたら行くから下で待ってろよ」
「はーい。早くしてよ」
「へいへい」
鈴を追い出してから、身支度をし始める。
鞄に携帯だの財布だのを放り込みながら、そっと机の引き出しを開ける。
中には、鈴にあげようと思って買ったプレゼントがある。
ホワイトデーを忘れていた訳じゃない。
ただ、いつものように鈴が怒鳴りこんでくるホワイトデーを過ごしたかっただけだ。
鈴が来なければ来ないで、ホワイトデー兼一ヶ月記念だとか言って、こっちから驚かしてやろうと思っていた。
「これどうすっかなぁ」
鈴には、クレープをおごると言ったし、今日渡さずとも一ヶ月記念に渡してもいい。
「ゆーきー!遅いー! 」
階下から鈴の叫ぶ声が聞こえる。
一緒にわずかに聞こえるのは、多分俺の母親の声だろう。
「今行くって! 」
そう叫んで、部屋を出て階段を駆け降りる。引き出しはそのまま閉めた。
今日は鈴と過ごせるわけだし、どうせなら鈴の驚いた顔を見たい。
それなら、やっぱり渡すのは今日じゃない方がいい。
今度鈴の驚いた顔が見れるなら、今日の鈴のワガママなんて安いものだ。
今日は思いっきり拗ねさせて、その穴埋めは数日後。
鈴がどんな顔をするか、今から楽しみだ。
「お待たせ。行くか」
玄関に突っ立っていた鈴の手を取って、玄関の扉を開ける。鈴は一瞬驚いた顔をしていたけど、すぐ笑顔になった。
「ねぇ、クレープならリヨンのクレープがいい」
「わかってるって。ついでに遊園地でも行く?」
「うん! 」
さぁ、騒がしい休日の始まりだ。

陽だまり〜Ambivalent〜 *Sample*

※冒頭3ページ目まで公開中

街外れにある木々に囲まれた大きなお屋敷。
整然と整えられた木々たちは静かな雰囲気を醸し出し、その隙間から降る太陽の光は暖かさを感じさせる。
そんな穏やかな空気に包まれたこのお屋敷は、街の有力者であるカナリス家のお屋敷であり、私の仕事場だ。
そして、私の朝は私のお仕えする坊ちゃんを起こすことから始まる。
坊ちゃんを起こしてお世話をして、その他の雑用諸々を片付けながら、坊ちゃんの要望に応じる。
それが、このお屋敷のメイドである私の日常。
このお屋敷の静かで温かな雰囲気と同じ、穏やかな日常である。

朝、鳥たちのさえずりと共に、程よくあいたカーテンの隙間から朝日が差し込む。ちょうどよく計算されているその隙間からの光は、気持ちよく寝ている私の顔を照らして、私に朝が来たことを知らせる。
「んー……」
眩しい朝の光を避けるように閉じたままの目をさらにぎゅっとつぶり、寝返りを打つ。
こつりと、自分の額が何かにあたったことに気が付いて、ぼんやりと目を開ける。
目の前には、大きな背中。寝ぼけたまま、その背中に額を擦り付ける。
背中の主は身をよじって、布団を深くかぶる。
その様子をぼんやりと見つめてから、ゆっくりと体を起こす。
隣に眠るその人の頭を一撫でしてから、ベッドをそろりと抜け出す。
私の朝一番の仕事は隣に眠る彼を起こすことだけれど、まだその時間じゃない。
今は、私が起きる時間であって彼―坊ちゃんを起こす時間じゃない。
だからこそ、朝日が私にだけあたるように計算して、眠る前に少しだけカーテンを開けておくのだ。
坊っちゃんは、驚くほど朝に弱くて早めに起きることを嫌う。
だったら別に眠ればいいのに、坊ちゃんはいつも一緒に寝たがるのだ。
理由を聞いても、返ってくる言葉はいつも同じ。
「恋人同士なんだからいいだろう!」
これは、坊ちゃんの口癖だ。
何を隠そうこの私――リーナ・エンデは、カナリス家のメイド兼坊ちゃん――アルベルト・カナリスの恋人なのである。
私としては、メイドにも関わらずお仕えする坊ちゃんと付き合っている手前、こっそり静かに付き合いたいのだけど、坊ちゃんはそうじゃない。
むしろ、お屋敷中どころか街中に公言してもいいとすら考えているのだから、困ったもの。
私と坊ちゃん――アルとは、もう立場が違うのだと何度言い聞かせたかわからない。
とはいえ私も、付き合い始めた頃は何とも思っていなかった。
元々アルとは幼馴染で、あの事件がなければ、身分違いの恋なんかじゃなくて、幼馴染の恋だったはずだ。
「幼馴染なのは変わらないんだけどなぁ」
そんなことをぼやきながら身支度をすませ、調理場へと降りていく。
「おはようございます」
挨拶と共に調理場の戸を開けると、朝ごはんのいい香りが漂ってくる。
調理場では料理人たちが忙しそうに動き回っている一方で、テーブルでは身支度を終えたメイドや執事達がのんびりと朝食を食べている。
食事をとる時間は、それぞれの仕事の関係でバラバラだけど、食事をとる場所はここだけなので、自然と使用人たちが一堂に会すのだ。
「エンデ。昨日は自室で休んだのだろうな?」
人の顔を見るや否や、執事長のクラーク・ブレンティスが鋭い目つきとともに言い放つ。
「いいえ。ブレンティス様。坊ちゃんが共にとおっしゃるので、一緒に休みました。」
やり取りを聞いていた仲間のメイド達が、くすくすと笑いだす。
毎朝毎朝同じやり取りをしているのに今更何をと、半ば呆れた笑いだけど。
「ブレンティス。毎朝同じことを聞いてよく飽きないわね。坊ちゃんがそうお望みなのだから、あなたが口出すことじゃなくてよ」
呆れ顔のメイド長――サリー・ピアソンがこう返すのも、毎朝のことだ。
「しかしだな、ピアソン。メイドらしい立場というものがあるだろう。それに……」
くどくどと小言を始める執事長を尻目に、メイド長は私に目を向ける。
「リーナ。今日は急な来客が入ったそうだから、いつもより早めに坊ちゃんの支度をしてちょうだい」
「はい。メイド長。お客様はどなたでしょう?服装の指定はございますか?」
「……いつも通りでいいわ」
「かしこまりました」
妙な間を開けて答えるメイド長に違和感を覚えつつ、返事をする。
調理場へ向かうと、料理番のメイド――アリシアがトレイを持って近づいてくる。
「はい、リーナ。二人分の朝ごはんね」
「どうして二人分?」
「坊ちゃんのご機嫌取り」
「あはは……」
真顔で言うアリシアに、思わず渇いた笑いが漏れる。そうだった。
朝早めに起きるのが嫌いな彼を、これから起こさなくてはならないのだ。
不機嫌になるに決まっているから、せめて二人で一緒に朝ごはんを食べろとそういうことらしい。 
アリシアとは、働き始めた時期が同じで、メイドの中でも一番仲が良い。
アルと自分の関係を、素直に応援してくれている数少ない人でもある。
アリシアは、いつもこうやって自分の手助けをしてくれる。
「ねぇ聞いた?今日誰が来るのか」
「ううん。メイド長は教えてくれなかった。服装とか色々あるのに」
有力者の息子たるもの、場に即した服装は必要不可欠。
そして、その服装を整えるのは私の仕事だ。
アルに恥をかかせるわけにはいかないのだから、誰が来るのかどんな場なのかを知るのは大切なのだ。
なのに、メイド長は「いつも通り」とだけ。
「本当、困っちゃう」
メイド長には聞こえないよう、ぶつぶつと小声で文句を言っているとアリシアがそっと耳打ちしてきた。
「お見合いらしいよ、今日」

Polar Baby +外伝 *sample*

※本文冒頭6ページ公開中

1.青天の霹靂

これが、青天の霹靂というものでしょうか。

「ねぇ、オレと付き合ってよ。」

いつもと変わらないはずの昼休み。
お気に入りの場所に響いたその声が、
私の日常を、ガラリと変えてしまいました。

* * * 
 

お昼休み。
私はいつも、校内の端にある木の下で過ごす。校舎裏にあたるこの場所は、ほんとんど人も来なくてとても静か。ここでお昼を食べながら、読書をするのが私の日課。この場所を知っている生徒なんていないんじゃないかと思うほど、この場所には誰も来ない。

来ない、はずでした。

「ね…さん。…よ。」

何か、声が聞こえたような気がして、私はぼんやりと顔を上げた。本に集中していて、何を言われたのか、さっぱり聞こえていない。顔を上げた先にいたのは、クラスメイトの楠木春だった。いつも貼りつけたように笑顔の彼は、今も笑顔だった。
「迷子?」
「へ?」
思わず口をついて出た言葉に、彼は一瞬きょとんとして、それからケラケラと笑いだした。
「えー…。なんでそういう返事なの。意味わかんないよ。」
意味がわからないのは、私の方だ。彼がなんて言ったのかもわかってないのに、そんなことを言われても、どうしていいのかわからない。自然と、眉間にしわが寄る。それに気付いたのか、彼はぴたりと笑うのをやめた。
「ごめんごめん。怒らないでよ。」
別に、怒っているわけではないのだけど。なんて説明しようか思案している内に、彼が言葉を続ける。
「でもさー、付き合ってって言われて、迷子?って普通返さないでしょ。」
まだ笑い足りないといわんばかりに、笑いをこらえながら、彼はそう言った。

いや、ちょっと待って。
彼は今、なんて言ったの?

「今、なんて言ったの?」
「ん?普通迷子って返さないでしょって。」
「その前!」
思わず口調がきつくなる。
いやだって、なんか『付き合って』とか言わなかった?聞き間違い、だよね?
「付き合ってって言われて、迷子って…」
彼の言った言葉に唖然とする。後半の言葉なんてどうでもいい。
『付き合って』って、誰が誰に言ったの?
「意味が、わかんない。」
茫然として呟くと、彼は少し困ったような顔をした。
「えっと、迷惑、かな?」
彼は真っすぐ私を見て、私の答えを待っている。私は、彼になんて返せばいいのか分からずに黙りこむ。何から聞けばいいのか、何に対して答えればいいのか。頭の中が混乱していて上手く言葉が出てこないのに、それでも沈黙に耐えられなくて、口を開いていた。
「や、えと、誰と誰が付き合うの?」
「ん?オレと秋坂さんでしょ。」
何当たり前の事言ってんの?と言わんばかりの顔で、彼は答える。いつものニコニコ顔で。
「いやいや、そうなんだけど、そうじゃなくって。いやそうでもなくって。」
もはや、自分で自分が何を言っているのかわからない。
「その、えと…。」
「落ち着きなよー。そんなにびっくりした?」
「えと、うん。や、意味わかんなくて。」
そもそも、なんでこんな話になったんだっけ?必死に頭を回転させて、最初の最初を思い出す。
「そう!そうだよ!」
「うわ、どしたの?」
「最初、なんて言ったの?」
「え?最初?」
「そう!ここに来た時!」
そう、そうだった。そもそも私は、なんで彼がここに来たのか、彼が最初に何をいったのか知らない。それをようやく思い出して、意気揚々と彼に疑問をぶつける。
ぶつけられた彼は、へなへなとその場に座り込んだ。
「あれ?どしたの?」
「いや、あのさ、もしかして聞こえてなかった?」
「うん。本読んでたから。」
ひらひらと、持っていた本を彼の前に掲げる。彼はがっくりとうなだれて、何やらぶつぶつと呟いて、それから顔を上げた。
「仕方ない。仕切り直すか。」
そう言って彼は、座っている私と目線を合わせて、真っすぐに私を見る。私の中の楠木春という人間は、いつもヘラヘラ笑っている印象で。だから、今の彼を見ても、こんな真剣な顔もできるんだなぁなんて、呑気に考えていた。
「ねぇ、秋坂さん。オレと付き合って。」
彼のその言葉は、私の思考を停止させた。
「あ、ねぇ、ナツって呼んでいい?」
真剣な顔をしていた彼は、ふにゃりと笑顔になって、そう言った。

私は、ただただ言葉を失っていた。

楠木春というクラスメートは、いわゆる人気者で、取り巻きの女の子とかもいて。いつも貼りつけたみたいな顔で笑っているなぁとか思っていたけど。
クラスの隅っこで目立たずに生きている私にとっては、それはそれは遠い人で。そんな彼が、今私に対して訳のわからないことを言っていて。もうどうしたらいいのか、何を答えなければいけないのかもわからなくなっていた。
「ナーツー。大丈夫?」
呼んでいい?とか言っていたくせに、勝手に私の名前を呼んでいる彼。なんでナツなんだろう?とかくだらないことは考えられるのに、肝心要の彼の『付き合って』発現には、全く思考が回らない。
「秋坂夏実だから、ナツ?」
「うん。あ、オレの事はハルって読んでね。」
相変わらず、彼はにこにこと笑っている。

ハルって、ハルって!いきなり呼べるわけない!

一体彼は何を考えているんだろう。さっぱりわからない。
「ね、返事は?」
「わかんない。」
思っていたことが、そのまま口をついて出てしまった。いやでも、付き合いたいかと言われても、正直分からない。少なくとも彼を恋愛対象と認識したことないのは、確か。確かだけど、じゃあ嫌なのかといわれると、それも何か違う気がして。
「そっか。わかんないのか。」
彼は、私の返事に怒るでもなく、文句を言うでもなく、何かを考え込んでいるかのように、押し黙った。いつもクラスの中心で、わーわー話している彼が、黙り込むこともあるんだなぁとか、またしても私は呑気な事を考えていた。そんな私に、彼はまたしても衝撃的なことを言った。
「よし!じゃ、とりあえず、付き合ってみよ。」