Shocking☆LOVE 4話目

「ホワイトデー」

今日は三月十四日、日曜日。
怒涛の期末試験も終わり、学校もなく、部活もなく。
加えて、春の気配を感じさせるほどに暖かく、いい天気。
ベッドでごろごろと惰眠を貪っていても、誰にも文句を言われない。
そう、それはそれは穏やかな休日……。
「ゆーきー!! 」
叫び声と同時に、バンッと勢いよく――そりゃもう扉が壊れるんじゃないかと思う程勢いよく、
俺の部屋の扉を開けたのは、幼馴染兼俺の彼女の本村鈴だ。
(あぁ、穏やかな休日終わった……)
そんなことを思いながら、のっそりとベッドの上に体を起こす。
「おはよ、鈴」
「『おはよ』じゃなーい! 」
鈴は誰にでも愛想がいいし、人当たりも良い。
素直で可愛げがある奴なんだが、俺にはどうも怒りっぽい。
こうして、俺の部屋に怒鳴りこんでくることもよくあることだ。
「朝から何?まだ九時じゃん」
ベッドヘッドにある時計をちらりと見ながら、思い切りよく伸びをする。
朝から鈴が来る事なんてしょっちゅうだし、大して慌てることじゃない。
長い付き合いだし、慣れたものだ。
「祐樹。今日何月何日? 」
「あ?三月十四日」
「そう!今日は何の日!? 」
扉辺りにいたはずの鈴は、いつの間にやらベッドまで来ていて、
ベッドに四つん這いになって、ぐいと俺の方に顔を向けている。
いや、その体勢はなんかよろしくない。非常によろしくない。
(胸見えてるし……)
「鈴。とりあえず座れ」
「いいから答えて! 」
「いいから座れ」
「なんで? 」
「胸見えてる」
一応、顔を明後日の方へ向けてぼそりと呟くと、
鈴は小さく悲鳴を上げて慌てて座りなおしている。
「えっち!変態! 」
「いや、今の俺悪くないだろ!で、朝からどうしたの? 」
鈴はぎろりと俺を睨むと、勢いよくしゃべりだした。
いや、しゃべるというよりは、叫び出したと言った方が正しい位の勢いで俺に言葉をぶつけてきた。
「今日は何の日?ねぇ一体何の日だと思う?私ら付き合ってどれくらい?ていうか、私達これ付き合ってんの?今までと変わらなくない?もう一ヶ月だよ?一ヶ月間なんの進展もないっておかしくない?初めてのホワイトデーなのに、何もないとかおかしくない?ねぇ、これどうなってんの? 」
一気にわっとしゃべって、叫び過ぎたのか勢いつけすぎたのか、
鈴の息が荒い。
(ホワイトデーねぇ……)
「とりあえず落ち着け」
ぺしっと軽く鈴の額を小突くと、鈴は恨めしそうに俺を睨んでくる。
確かに、付き合って一ヶ月。
いや、バレンタインデーに告白されて数日後に返事をしているので、
正確にはまだ一ヶ月経ってないんだが、とにかくその一ヶ月これといっていつもと変わっていない。
今までと同じように、朝一緒に学校に通い、一緒に帰宅。
あとやっていた事といえば、休日に一緒に試験勉強した位で確かに何もない。
まぁ、時々鈴にねだられたり、自分からしたくなったりしてキスした位はあったかな?
黙ったまま記憶を回想中の俺の頭を今度は鈴が小突く。
「いって」
いや小突くというより、こいつ思い切りひっぱたきやがった。
「なんとか言いなさいよ! 」
鈴は相変わらず怒り心頭と言った感じで、俺を睨んでいる。
「いや、キスはしたしちゃんと恋人じゃん?」
「それ付き合った初日からしてるじゃん。進展じゃないし」
「うっ……」
そう言われると、確かに何も進展していない。
好きだと言ったのだって、返事したときだけだし。
いや、それは鈴も同じ気がする。
「お前だって別に『好き』とかいう訳じゃないし、変わってなくね? 」
「私がそんなしょっちゅう『好き』とかいうタイプに見える? 」
「そりゃお互い様だろ」
「うぅ……そりゃ、そうかもしれないけど」
怒り心頭と言わんばかりだった鈴は、今度はしょんぼりと落ち込み始めた。
(本当、表情ころころ変わるなぁ。まぁ、そこが可愛いんだけども)
「で、お前は結局何に一番怒ってるの?」
しょんぼりしている鈴の頭を撫でながら、本題を確認する。
色々言われてるけど、進展がない事についてはお互い様な感じがするし、
なんとなくそれに怒っている訳ではない気がする。
なんとなく、だけど。
「今日ホワイトデーなんだけど」
「そうだな」
「それだけ? 」
「ん?何が? 」
「バレンタインにチョコあげたじゃん」
「俺もあげたじゃん。ちょっと遅れたけど」
「……」
「……」
お互い黙ってしまって、なんとなく気まずい空気が流れる。
しばらくすると、鈴は大きく溜息をついて、
俺の横に来るようにごろりとベッドに寝転がった。
「はぁ……そうだよね、祐樹ってそういう奴だよね」
鈴はうだうだとベッドに転がりながら、俺のTシャツを引っ張ってくる。
これもいつものこと――というか、よくあることなんだが、
付き合いだした今、止めて欲しいと思うのは俺だけだろうか。
(付き合いだしたら急に女に見えるから不思議だよなぁ)
寝転がった鈴の頭を撫でたり、髪を梳いてみたりしながら、なんとなく時間を過ごす。
「ねぇ、ホワイトデーだよ?お返しは? 」
拗ねたように頬を膨らませて、鈴が俺を見上げる。
「じゃ、デートでも行くか。クレープでもおごってやろう」
拗ねて膨らんだままの鈴の頬を指でつつきながら、答える。
「何その上から目線」
「いつものその辺の飴よりは進展してるだろ」
そう言いながら、なんとなく鈴の頬にキスをする。
途端に鈴は顔を赤くして、がばっと起き上がる。
それから、顔を隠すように髪をいじったりして、照れ隠ししている。
キスするだけでこうなのに、その先進もうなんて思えないのは俺だけだろうか。
(進展と言われてもねぇ)
元々、ほぼ毎日一緒に過ごしている訳で。
これ以上の進展というのも、中々難しいというのが俺の言い分だ。
「ほら、着替えたら行くから下で待ってろよ」
「はーい。早くしてよ」
「へいへい」
鈴を追い出してから、身支度をし始める。
鞄に携帯だの財布だのを放り込みながら、そっと机の引き出しを開ける。
中には、鈴にあげようと思って買ったプレゼントがある。
ホワイトデーを忘れていた訳じゃない。
ただ、いつものように鈴が怒鳴りこんでくるホワイトデーを過ごしたかっただけだ。
鈴が来なければ来ないで、ホワイトデー兼一ヶ月記念だとか言って、こっちから驚かしてやろうと思っていた。
「これどうすっかなぁ」
鈴には、クレープをおごると言ったし、今日渡さずとも一ヶ月記念に渡してもいい。
「ゆーきー!遅いー! 」
階下から鈴の叫ぶ声が聞こえる。
一緒にわずかに聞こえるのは、多分俺の母親の声だろう。
「今行くって! 」
そう叫んで、部屋を出て階段を駆け降りる。引き出しはそのまま閉めた。
今日は鈴と過ごせるわけだし、どうせなら鈴の驚いた顔を見たい。
それなら、やっぱり渡すのは今日じゃない方がいい。
今度鈴の驚いた顔が見れるなら、今日の鈴のワガママなんて安いものだ。
今日は思いっきり拗ねさせて、その穴埋めは数日後。
鈴がどんな顔をするか、今から楽しみだ。
「お待たせ。行くか」
玄関に突っ立っていた鈴の手を取って、玄関の扉を開ける。鈴は一瞬驚いた顔をしていたけど、すぐ笑顔になった。
「ねぇ、クレープならリヨンのクレープがいい」
「わかってるって。ついでに遊園地でも行く?」
「うん! 」
さぁ、騒がしい休日の始まりだ。

恋とはどんなものかしら *Sample*

※冒頭6ページ公開中

はじめに

本作は、ご本人様に許可を頂きまして、ある楽曲をコンセプトとして作成させて頂きました。
そのある曲とは、シンガーソングライター・星羅さん「君はともだち」という楽曲です。とてもとても素敵な曲です。
詳しいことはあとがきにて語りたいと思いますが、まずは許可をくださいました星羅さんに、改めて心より御礼申し上げます。

二〇一五年四月某日            
蒼井 彩夏

***

恋するってどんな気持ちだろう。
幸せな気持ち?
ドキドキする気持ち?
一緒にいると楽しいと思う気持ち?
一緒にいるとホッとする気持ち?

恋するってどういうことだろう。
いつも相手を想うこと?
相手を手に入れたいと想うこと?
相手のことばかり考えて、何も手につかなくなること?
いつも相手が傍にいてくれること?

本物の恋とは、なんだろう。
今ここにある恋。あったかもしれない恋。これから発展するかもしれない恋。
どれが、本物の恋?

* * *

「ねぇ!どう思う!? 」
深夜。そろそろ電車の運行も終わろうかという時間帯。都会のいわゆる飲み屋街にある居酒屋で、だんっとジョッキを叩きつけるように机に置きながら、目の前にいる男に女が叫ぶ。
「どうと言われても。冬花、また彼氏と喧嘩した訳ね」
呆れたように笑いながら、男は手元のグラスに口をつける。冬花と呼ばれた女は、むすっとした顔でジョッキに残ったビールを一気に流し込む。
「桐人は飲まないの? 」
居酒屋へ入ってから今に至るまで、ウーロン茶しか飲まない目の前の男に冬花は不思議そうに尋ねる。
「オレ車だし。大体、オレが飲んだらお前帰れないだろ」
そう言いながら、桐人は机の上に置いたままの車のキーを指さす。
「別にタクシーで帰るのに」
「前、それでも帰れなかったの、どこの誰でしたっけ? 」
「う……店員さん!ビールおかわり! 」
小さくバツが悪そうな声をあげた冬花は、何のことかわからないと言わんばかりに、店員にビールを頼む。話を逸らそうとしたのを察してか、桐人が話を戻す。
「で、彼氏と電話する、しないで喧嘩した訳ね」
数分前、冬花が叫ぶ前にさんざん喚き散らした話をまとめると、そういうことだった。
「うん。確かにさ、毎日電話はうっとうしいと思うよ?向こうだって仕事忙しいって言ってたし。でもさ、何日かに一回くらいよくない!? 」
「難しい問題だな」
桐人はそう呟いて、いかにも考えてますと言わんばかりに、腕を組む。冬花はじっと桐人の答えを待ち、二人の間になんとも言えない沈黙がおりる。
桐人は、さてなんて返そうかと思案していた。正直言ってしまえば、電話の頻度が一日何回までなら大丈夫で、何回以降はダメかなんて人それぞれだと思う。電話の頻度だけじゃなく、LINEだってそうだ。毎日ひっきりなしに連絡を取る人もいれば、用事のあるときだけという人もいる。友人や同僚の間の話であれば、大した問題にはならないそれらの感覚の差も、こと恋愛のこととなると大きな問題となる、らしい。冬花の、毎日声が聞きたい、連絡が欲しいという気持ちもわからなくはないし、桐人もどちらかと言えばそういうタイプだ。が、昔から冬花の好きになる男は、どうもそういう感覚が冬花とは合わないらしい。
「彼氏はどれくらいがいいって言ってるんだっけ?」
ひとまず答えを出すのは止めて、相手の話を聞くことにする。冬花は、桐人が考え込んでいる内に運ばれてきたビールを一口飲むと、大きくため息をついた。
「自分が連絡しない限り連絡してくるなって」
がっくりと頭を垂れて呟いた冬花は、しまいには机につっぷしてしまった。
「お前には拷問だな」
桐人は呆れた笑いをこぼしそうになるのをこらえながら、いかにも深刻そうにつぶやく。三園冬花という女は、とても寂しがり屋なのだ。彼氏がいようといまいと、毎日のように自分にもLINEでメッセージを送ってくるし、ちょっとでも時間があるとご飯に行こうと言い出す。今日は無理だと言えば、じゃぁ電話しよう!と返してくるような女なのだ。これまでの彼氏との破局理由はすべて、こういう冬花のさびしがり屋なところが重たくなったこと。彼氏との喧嘩の理由も大体それだ。こうして、冬花に呼び出され彼氏の愚痴を聞かされるときも大体ネタは同じ。桐人にとっては、今日のこの状況も「いつものこと」で、毎度毎度よく飽きないなと思っているくらいだ。
机につっぷしていた冬花は顔だけあげると、桐人を見上げる。
「桐人はさぁ、私の呼び出しも全然平気じゃん?毎日LINE返してくれるじゃん?なのに、なんで私の彼氏は返してくれないの? 」
今にも泣きそうな顔で、冬花は言葉を並べる。桐人は困ったような呆れたような笑みを浮かべながら、冬花の問いに答える。
「そりゃあ、オレ達は付き合い長いし、そういう感覚似ているからじゃない? 」
「そういうもんかなぁ」
「そういうもんだよ」
「桐人は、本当にいつも付き合ってくれるよね」
のっそりと起き上がって、ビールをちびちびと飲みながらそう呟いた冬花に、桐人はあいまいな笑いをこぼす。
「ま、腐れ縁てやつかな」
「それあんまりいい意味じゃないよね」
「ははは」
笑ってごまかすとは、こういうことだろうかなんて思いながら、桐人はグラスに入ったウーロン茶を飲み干す。

陽だまり〜Ambivalent〜 *Sample*

※冒頭3ページ目まで公開中

街外れにある木々に囲まれた大きなお屋敷。
整然と整えられた木々たちは静かな雰囲気を醸し出し、その隙間から降る太陽の光は暖かさを感じさせる。
そんな穏やかな空気に包まれたこのお屋敷は、街の有力者であるカナリス家のお屋敷であり、私の仕事場だ。
そして、私の朝は私のお仕えする坊ちゃんを起こすことから始まる。
坊ちゃんを起こしてお世話をして、その他の雑用諸々を片付けながら、坊ちゃんの要望に応じる。
それが、このお屋敷のメイドである私の日常。
このお屋敷の静かで温かな雰囲気と同じ、穏やかな日常である。

朝、鳥たちのさえずりと共に、程よくあいたカーテンの隙間から朝日が差し込む。ちょうどよく計算されているその隙間からの光は、気持ちよく寝ている私の顔を照らして、私に朝が来たことを知らせる。
「んー……」
眩しい朝の光を避けるように閉じたままの目をさらにぎゅっとつぶり、寝返りを打つ。
こつりと、自分の額が何かにあたったことに気が付いて、ぼんやりと目を開ける。
目の前には、大きな背中。寝ぼけたまま、その背中に額を擦り付ける。
背中の主は身をよじって、布団を深くかぶる。
その様子をぼんやりと見つめてから、ゆっくりと体を起こす。
隣に眠るその人の頭を一撫でしてから、ベッドをそろりと抜け出す。
私の朝一番の仕事は隣に眠る彼を起こすことだけれど、まだその時間じゃない。
今は、私が起きる時間であって彼―坊ちゃんを起こす時間じゃない。
だからこそ、朝日が私にだけあたるように計算して、眠る前に少しだけカーテンを開けておくのだ。
坊っちゃんは、驚くほど朝に弱くて早めに起きることを嫌う。
だったら別に眠ればいいのに、坊ちゃんはいつも一緒に寝たがるのだ。
理由を聞いても、返ってくる言葉はいつも同じ。
「恋人同士なんだからいいだろう!」
これは、坊ちゃんの口癖だ。
何を隠そうこの私――リーナ・エンデは、カナリス家のメイド兼坊ちゃん――アルベルト・カナリスの恋人なのである。
私としては、メイドにも関わらずお仕えする坊ちゃんと付き合っている手前、こっそり静かに付き合いたいのだけど、坊ちゃんはそうじゃない。
むしろ、お屋敷中どころか街中に公言してもいいとすら考えているのだから、困ったもの。
私と坊ちゃん――アルとは、もう立場が違うのだと何度言い聞かせたかわからない。
とはいえ私も、付き合い始めた頃は何とも思っていなかった。
元々アルとは幼馴染で、あの事件がなければ、身分違いの恋なんかじゃなくて、幼馴染の恋だったはずだ。
「幼馴染なのは変わらないんだけどなぁ」
そんなことをぼやきながら身支度をすませ、調理場へと降りていく。
「おはようございます」
挨拶と共に調理場の戸を開けると、朝ごはんのいい香りが漂ってくる。
調理場では料理人たちが忙しそうに動き回っている一方で、テーブルでは身支度を終えたメイドや執事達がのんびりと朝食を食べている。
食事をとる時間は、それぞれの仕事の関係でバラバラだけど、食事をとる場所はここだけなので、自然と使用人たちが一堂に会すのだ。
「エンデ。昨日は自室で休んだのだろうな?」
人の顔を見るや否や、執事長のクラーク・ブレンティスが鋭い目つきとともに言い放つ。
「いいえ。ブレンティス様。坊ちゃんが共にとおっしゃるので、一緒に休みました。」
やり取りを聞いていた仲間のメイド達が、くすくすと笑いだす。
毎朝毎朝同じやり取りをしているのに今更何をと、半ば呆れた笑いだけど。
「ブレンティス。毎朝同じことを聞いてよく飽きないわね。坊ちゃんがそうお望みなのだから、あなたが口出すことじゃなくてよ」
呆れ顔のメイド長――サリー・ピアソンがこう返すのも、毎朝のことだ。
「しかしだな、ピアソン。メイドらしい立場というものがあるだろう。それに……」
くどくどと小言を始める執事長を尻目に、メイド長は私に目を向ける。
「リーナ。今日は急な来客が入ったそうだから、いつもより早めに坊ちゃんの支度をしてちょうだい」
「はい。メイド長。お客様はどなたでしょう?服装の指定はございますか?」
「……いつも通りでいいわ」
「かしこまりました」
妙な間を開けて答えるメイド長に違和感を覚えつつ、返事をする。
調理場へ向かうと、料理番のメイド――アリシアがトレイを持って近づいてくる。
「はい、リーナ。二人分の朝ごはんね」
「どうして二人分?」
「坊ちゃんのご機嫌取り」
「あはは……」
真顔で言うアリシアに、思わず渇いた笑いが漏れる。そうだった。
朝早めに起きるのが嫌いな彼を、これから起こさなくてはならないのだ。
不機嫌になるに決まっているから、せめて二人で一緒に朝ごはんを食べろとそういうことらしい。 
アリシアとは、働き始めた時期が同じで、メイドの中でも一番仲が良い。
アルと自分の関係を、素直に応援してくれている数少ない人でもある。
アリシアは、いつもこうやって自分の手助けをしてくれる。
「ねぇ聞いた?今日誰が来るのか」
「ううん。メイド長は教えてくれなかった。服装とか色々あるのに」
有力者の息子たるもの、場に即した服装は必要不可欠。
そして、その服装を整えるのは私の仕事だ。
アルに恥をかかせるわけにはいかないのだから、誰が来るのかどんな場なのかを知るのは大切なのだ。
なのに、メイド長は「いつも通り」とだけ。
「本当、困っちゃう」
メイド長には聞こえないよう、ぶつぶつと小声で文句を言っているとアリシアがそっと耳打ちしてきた。
「お見合いらしいよ、今日」

Polar Baby +外伝 *sample*

※本文冒頭6ページ公開中

1.青天の霹靂

これが、青天の霹靂というものでしょうか。

「ねぇ、オレと付き合ってよ。」

いつもと変わらないはずの昼休み。
お気に入りの場所に響いたその声が、
私の日常を、ガラリと変えてしまいました。

* * * 
 

お昼休み。
私はいつも、校内の端にある木の下で過ごす。校舎裏にあたるこの場所は、ほんとんど人も来なくてとても静か。ここでお昼を食べながら、読書をするのが私の日課。この場所を知っている生徒なんていないんじゃないかと思うほど、この場所には誰も来ない。

来ない、はずでした。

「ね…さん。…よ。」

何か、声が聞こえたような気がして、私はぼんやりと顔を上げた。本に集中していて、何を言われたのか、さっぱり聞こえていない。顔を上げた先にいたのは、クラスメイトの楠木春だった。いつも貼りつけたように笑顔の彼は、今も笑顔だった。
「迷子?」
「へ?」
思わず口をついて出た言葉に、彼は一瞬きょとんとして、それからケラケラと笑いだした。
「えー…。なんでそういう返事なの。意味わかんないよ。」
意味がわからないのは、私の方だ。彼がなんて言ったのかもわかってないのに、そんなことを言われても、どうしていいのかわからない。自然と、眉間にしわが寄る。それに気付いたのか、彼はぴたりと笑うのをやめた。
「ごめんごめん。怒らないでよ。」
別に、怒っているわけではないのだけど。なんて説明しようか思案している内に、彼が言葉を続ける。
「でもさー、付き合ってって言われて、迷子?って普通返さないでしょ。」
まだ笑い足りないといわんばかりに、笑いをこらえながら、彼はそう言った。

いや、ちょっと待って。
彼は今、なんて言ったの?

「今、なんて言ったの?」
「ん?普通迷子って返さないでしょって。」
「その前!」
思わず口調がきつくなる。
いやだって、なんか『付き合って』とか言わなかった?聞き間違い、だよね?
「付き合ってって言われて、迷子って…」
彼の言った言葉に唖然とする。後半の言葉なんてどうでもいい。
『付き合って』って、誰が誰に言ったの?
「意味が、わかんない。」
茫然として呟くと、彼は少し困ったような顔をした。
「えっと、迷惑、かな?」
彼は真っすぐ私を見て、私の答えを待っている。私は、彼になんて返せばいいのか分からずに黙りこむ。何から聞けばいいのか、何に対して答えればいいのか。頭の中が混乱していて上手く言葉が出てこないのに、それでも沈黙に耐えられなくて、口を開いていた。
「や、えと、誰と誰が付き合うの?」
「ん?オレと秋坂さんでしょ。」
何当たり前の事言ってんの?と言わんばかりの顔で、彼は答える。いつものニコニコ顔で。
「いやいや、そうなんだけど、そうじゃなくって。いやそうでもなくって。」
もはや、自分で自分が何を言っているのかわからない。
「その、えと…。」
「落ち着きなよー。そんなにびっくりした?」
「えと、うん。や、意味わかんなくて。」
そもそも、なんでこんな話になったんだっけ?必死に頭を回転させて、最初の最初を思い出す。
「そう!そうだよ!」
「うわ、どしたの?」
「最初、なんて言ったの?」
「え?最初?」
「そう!ここに来た時!」
そう、そうだった。そもそも私は、なんで彼がここに来たのか、彼が最初に何をいったのか知らない。それをようやく思い出して、意気揚々と彼に疑問をぶつける。
ぶつけられた彼は、へなへなとその場に座り込んだ。
「あれ?どしたの?」
「いや、あのさ、もしかして聞こえてなかった?」
「うん。本読んでたから。」
ひらひらと、持っていた本を彼の前に掲げる。彼はがっくりとうなだれて、何やらぶつぶつと呟いて、それから顔を上げた。
「仕方ない。仕切り直すか。」
そう言って彼は、座っている私と目線を合わせて、真っすぐに私を見る。私の中の楠木春という人間は、いつもヘラヘラ笑っている印象で。だから、今の彼を見ても、こんな真剣な顔もできるんだなぁなんて、呑気に考えていた。
「ねぇ、秋坂さん。オレと付き合って。」
彼のその言葉は、私の思考を停止させた。
「あ、ねぇ、ナツって呼んでいい?」
真剣な顔をしていた彼は、ふにゃりと笑顔になって、そう言った。

私は、ただただ言葉を失っていた。

楠木春というクラスメートは、いわゆる人気者で、取り巻きの女の子とかもいて。いつも貼りつけたみたいな顔で笑っているなぁとか思っていたけど。
クラスの隅っこで目立たずに生きている私にとっては、それはそれは遠い人で。そんな彼が、今私に対して訳のわからないことを言っていて。もうどうしたらいいのか、何を答えなければいけないのかもわからなくなっていた。
「ナーツー。大丈夫?」
呼んでいい?とか言っていたくせに、勝手に私の名前を呼んでいる彼。なんでナツなんだろう?とかくだらないことは考えられるのに、肝心要の彼の『付き合って』発現には、全く思考が回らない。
「秋坂夏実だから、ナツ?」
「うん。あ、オレの事はハルって読んでね。」
相変わらず、彼はにこにこと笑っている。

ハルって、ハルって!いきなり呼べるわけない!

一体彼は何を考えているんだろう。さっぱりわからない。
「ね、返事は?」
「わかんない。」
思っていたことが、そのまま口をついて出てしまった。いやでも、付き合いたいかと言われても、正直分からない。少なくとも彼を恋愛対象と認識したことないのは、確か。確かだけど、じゃあ嫌なのかといわれると、それも何か違う気がして。
「そっか。わかんないのか。」
彼は、私の返事に怒るでもなく、文句を言うでもなく、何かを考え込んでいるかのように、押し黙った。いつもクラスの中心で、わーわー話している彼が、黙り込むこともあるんだなぁとか、またしても私は呑気な事を考えていた。そんな私に、彼はまたしても衝撃的なことを言った。
「よし!じゃ、とりあえず、付き合ってみよ。」

Shocking ☆ LOVE 3話目

「鈍感男の気づき」

「浦野はさ、自分のことに鈍いんだよな。」
「何、急に。」
自習の時間中、佐々木が急に話しを振ってきた。
「返事、してないんだろ?」
「自分の気持ちがわからん。」
「ほらね。」
佐々木は、課題の問題集に目を落としながら、くすくす笑っている。
「まぁ、せっかく自習ということですし?ここは1つ、自己分析でもしてみたらどうよ。」
「自己分析…ねぇ。」
そうだ。いつも強引で、自分勝手で。正直面倒くさいけど、でも、嫌だと思ったことは、一度もないんだよな…。
あの時——チョコを選んだときも結局、あいつの好きなやつ選んだんだよな。
馬鹿だよなぁ。俺。
「俺鈍い?」
「相当じゃないのぉ〜?」
呑気な佐々木の声が、妙に突き刺さる。
「お前さぁ、去年の夏祭り覚えてる?」
「何だよ急に。」
「本村と仲良く楽しく行ってたじゃん。」
「去年どころか毎年だ。」
いい加減、佐々木に付き合うのもうざったくなってきた…。
「お前の覚えていなそうなエピソード教えてやろうか。」
「何だよ。」
にやにやと、佐々木は笑っている。
「お前、去年クラスの女子に誘われたの断って、本村と夏祭り行ったろ。」
は…?クラスの女子になんか誘われたっけか?
「完全に忘れてるねぇ。」
待て待て待て。さっぱり思い出せない。
というか、なぜ佐々木が知ってるんだ?
「俺、女の子と仲良しだから。」
「人の心を読むなっ。」
去年、そんなことあったけか?
夏祭りといえば…鈴が珍しくピンク系の浴衣着てたこと位しか覚えてねぇ。
あとは、あいつと金魚すくいに躍起になったこととか。
ていうか、全部あいつ絡みじゃねぇか。なぜ、浴衣の色まで覚えてるんだよ、俺!
「俺、あいつのこと好きなんかなぁ。」
「自分で考えろやぁ。」
「ここまでやらせといて、放置かよっ。」
佐々木は、俺の言葉を完全に無視して、課題に取り組み始めた。
「お前7割、俺3割な。」
「何の話だよ、佐々木。」
「さっきのエピソードは、貸しだ。」
「へーへー。」
俺の分、妙に多くね?まぁいっか。
それにしても、鈴になんて言うべきか…。
そのまま考え込んでいたら、あっという間に放課後。
「浦野ー浦野浦野浦野ー。」
「うるせぇ、佐々木。」
「俺すごいもん見ちゃった。」
「何?」
「本村。同じクラスの奴に告られてたぜ。」
はい…?あんなの好きになる奴いんのかっ!
なんて、相当失礼なことを考えつつ、ふつふつと怒りに似た感情がわきあがってきた。
「それ、マジ?」
「おぅ。」
「ゆぅきぃ〜。一緒帰ろ〜。」
鈴の間延びした声が、ぱたぱたという足跡ともに近づいてくる。
「鈴、ちょっと来い。」
「え?ちょ、な、なに?!」
鈴の声は無視して、強引に腕を引いていく。
いつもと逆だとか、明日また佐々木に何か言われるんだろうなとか、そんこと考える余裕もなかった。
どうしてこんなに余裕がないのか、自分でもよくわかってなかったけど。
「ちょっと、祐樹!祐樹ってば!」
家の近くの公園まで来て、いい加減ぶちきれた鈴に、思い切り良く腕を振り払われる。
「なんなのよ!」
気がついたら俺は、鈴にキスしていた。
「…っ。祐樹…?」
いつもは強気な鈴が、泣きそうな顔をしている。こんな顔見たのは、二回目か。
「ごめん。でも俺…俺もお前のこと好きっぽい。」
鈴は、きょとんとしている。俺自身も、自分の言葉と行動に呆然としてる。
「順番ぐちゃぐちゃ。」
相変わらず泣きそうな顔で、鈴が呟く。
「ごめん。」
「謝んないでよ。嬉しいんだから。」
こんな鈴見るの、初めてだなぁ。
鈴が、俺の方に体を寄せてくる。
そのまま鈴を抱きしめて、もう一度キスをした。

次の日、後をつけてきて一部始終を見ていた佐々木に、からかわれたのは言うまでもない。

*********************

※書いた当時のあとがきです※
1年越しくらいで。ようやく完結しましたぁ〜☆
えぇもぉ、浦野の鈍さに私が苦労しました(笑)
そもそも、バレンタイン用の読みきり短編のはず(1話のみのはず)だったのに、なぜか連載に。
つっても、3話だけだけども。コレ位の長さって初めて書いたかな。
とりあえず、二人くっついたしいっかな。
この二人結構気に入ったので、また違う話かけたらいいなぁ。
次書くときは、三人称で書きます。。主人公視点書きにくかった(^^;)
そんな感じで、お粗末さまでしたm(_ _)m

2008.7.29 蒼井彩夏

Shocking ☆ LOVE 2話目

「噂・葛藤・新発見?」

次の日、学校に行った俺は、噂の標的にされた。
「よぉ〜、お前本村に告られたって〜?」
「やるねぇ〜。」
誰だよ、噂流した大ばか者は。
「やぁ〜、ゆぅちゃん、よかったねぇ。」
「ぶっ殺すぞ。佐々木。」
こいつは、俺の小学校からの悪友、佐々木。
ちなみに、本村ってのは、鈴の苗字だ。
「まさか、本村が、お前のことをねぇ〜。そんな風には、見えなかったなぁ。」
「俺もだ。ていうか、あいつが俺を男してみてるとは、夢にも思わなんだ。」
「ゆぅちゃん、言葉変よ?いーじゃん、付き合っちゃえよ。」
「その呼び方やめろ。できるか、アホゥ。俺はなぁ。」
「あいつを、女としてみたことはないってか?」
「よくわかってんじゃん。」
佐々木は、ケタケタと笑い出しだ。なんか、ムカツク。
「無自覚なんだねぇ、浦野。浦野祐樹16歳。生まれて初めての告白に戸惑ってますってか。」
「佐々木…からかうな。俺は、本気で悩んでんだよ。」
佐々木は、飄々としている。こいつは、こういう男だ。
確か、中学から今までで、彼女が何人かいたはず。
「女の子の気持ち、踏みにじったらダメよ。」
て、言われてもねぇ。
「お前さ、マジで本村のこと、なんとも思ったことないの?」
「あいつは、いつも俺に面倒事を持って来るんだ。」
クラスが違うのをいいことに、言いたい放題言っている。
佐々木はといえば、俺と話しながら、彼女から貰ったであろうチョコを食べている。
「まぁでもさぁ、本村良い子じゃん。」
「お前にはな。」
「んー、鈍いねぇ。浦野。」
やれやれと、佐々木は首を横に振る。
「お前にだけってことはさ、逆言えば、お前にしか、本当の自分見せてないってコトなんじゃない?」
「だから、何?俺にだけ、本性露わにしてるだけだろ。」
「うわっ、お前そういう考え方かよ。自分だけ特別、とか思わねぇの?」
「これっぽっちも。」
そんな会話をしている間も、周りはごちゃごちゃと、囃し立てる。
いい加減うるさい。
「てか、噂の元凶は誰だ。」
「俺。昨日、公園で見てたんだな。」
「佐々木。お前、ふざけんなよ。」
いいついでに、一発殴る。そういや、鈴とはよく手の出る喧嘩もしたなぁ。
最近は、もっぱらあいつが殴ってくるだけだけど。
俺がやったら、怪我させるしな。殴られても、あんま痛くないし。
ん?あれ、俺一応あいつに気使ってる?てか、あいつも女だし。当たり前だよな。
てことは、俺、一応あいつのこと女としてみてたのか。
でもなぁ、あいつが恋人になるってのが、想像できない。
いっつも、傍に居るしなぁ。
「頭が混乱してきた・・・。」
「浦野、こういうの初めてだもんなぁ。」
「お前は、悩まないんだろうよ。」
「まぁねぇ。お、チャイムチャイム。」
結局、その日一日中、昨日のことが頭がいっぱいで。
教師たちに、ぼけっとするなと、言われることもしばしば。
一体、俺はどうすりゃいいんだ。鈴に、なんて言ったらいい?
放課後、教室に鈴がやってきた。何故。
「祐樹ー、帰るぞー。送ってけー。」
なんでお前は、そういつも通りなんだよ。
「朝は、一人で行っただろうが。」
「だって、暗いもーん。」
「まだ、日沈んでねぇよ。」
「けちけちしなーい。ほら、帰るよ!」
周りにかわかられ、鈴に腕を引っ張られ、俺は、教室を後にした。
校門を出て、二人になると、鈴は俺から手を離してポツリと言った。
「ごめんね。迷惑かけて。」
「珍しくしおらしいじゃん。」
「………。」
あれ?言い返してこない。
今日になって、冗談だとか、言ってこないかなーとか、思ってたんだけど。
「なぁ、やっぱり昨日の、マジ?」
「うん。」
鈴が、鈴じゃない。こんな大人しい鈴は、見たことがない。
まさか、芝居じゃないだろうな?それとも、鈴にもそんな一面があったのか?
「今日、大人しいじゃん。鈴らしくない。」
「そう?祐樹の中の私のイメージってどんな?」
「うるさい、やかましい、乱暴、強引。」
「それ、女の子に対して言う言葉?!」
あ、いつもの調子に戻った。よかった。
って、なんで俺は、安心してるんだよっ!
「祐樹って、女の子に夢見すぎじゃない?」
「アホ。お前見てて、女の子は皆大人しくて、可愛いなんて夢見るかっ。」
「ひっどいっ。」
でもやっぱ、いつもより元気ないかなぁ。
「お二人さん、仲いいねぇ。」
「佐々木。」
「あー、佐々木君だぁ。よくも、噂にしてくれたわね!」
「あら、本村にもバレてんの?」
「あんたの彼女ちゃんに、聞いたのよ!」
鈴は、佐々木に噛み付く。佐々木は、さらりと受け流してる。
佐々木も家が同じ方向だけど、一緒になるとは、珍しい。わざとか?
「佐々木。なんで、お前がここにいる?」
「え?家の方向一緒じゃない。」
鈴が、きょとんと俺に言う。こいつ、案外素直なのか?
いつも彼女送ってから帰る奴が、ここにいることに何の疑問も持たないのか?
「お前なぁ、こいつはいっつも彼女送ってから、帰るんだぜ?この時間は、おかしいだろ。」
そうだ。まだ、俺たちが学校出てから10分と経っていない。
それに、俺が教室を出たとき、佐々木はまだ、教室にいたはずだ。
「彼女なら〜、そこの角で待ってるよん。」
「だから、何しにきたんだよ。」
「本村にエールをば。ま、浦野鈍いから、頑張って。じゃな。」
それだけ行って、さっさと彼女のところへ行った。
何がしたかったんだ?あいつは。
「祐樹って鈍いの?」
「お前は、案外素直なのな。」
お互いの新しい一面を見て、お互い笑い出してしまった。
まだまだ、知らないことってあるもんだな。
結局この日も、俺は鈴に返事を出来ないまま、家へ帰った。

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Shocking ☆ LOVE 1話目

「衝撃のバレンタイン」

「明後日は、バレンタインだ!というわけで、チョコ買いに行くの付き合って♪」
休みの日に突然家にやってきて、そんな無茶苦茶なことを、男の俺に言うのは、幼馴染みの鈴だ。
完全に、名前負けのこいつは、可愛さの欠片もない…。
男以上にサバサバしているし、結構乱暴・強引。
付き合わされる俺の身にもなれっての。
「誰がそんなもんに付き合うか。」
かといって、早々大人しく付いていくほど、俺はなよっちくない。
「なんだとー、冷たいやつめ!」
「お前の言ってることが、無茶苦茶なんだよ!」
こんな口げんかもしょっちゅうだ。
「ひどいひどい…かわいいゆぅちゃんはどこへ??」
俺の部屋の入り口で、めそめそと泣き崩れる。
もちろん、嘘泣きだ。
「懐かしい呼び名を出すな。今更、そんな呼び方をするな。」
「いーじゃないのよ〜。昔は、すーちゃんすーちゃんって、懐いてたくせに。」
懐いてたって…俺ら同い年なんですけど?
「つーか、友達誘えばいいじゃねぇか。」
「だめっ!あんたじゃなきゃダメなの!」
「なんで?」
「なんでって…そりゃぁ…。」
珍しく、口ごもる鈴。しかも、妙に恥ずかしそうにしている。
「ははぁ〜、さてはお前、マジで好きな奴にあげる気だな?」
「悪いかっ!女の子じゃ、趣味わかんないんじゃんっ。やっぱここは、同じおと…」
「却下。」
鈴が言い終わる前に、さっさと結論を出す。いつまでも、付き合ってられるか。
俺は、ベッドにごろりと寝転がる。
「ケチ〜。じゃ、ちゅーしたら一緒に来てくれる?」
そう言いながら、鈴は俺に近寄ってくる。
やばい…目が本気だ。
「待て。待て待て待て。わかった、いく、行くから。」
「やったぁ〜!じゃ、さっさと支度してね。」
うきうきと、部屋を出て行く鈴。
なんで、それくらいで引き下がるかって?
そりゃ、今マジでキスなんかされた日にゃ、一生そのネタで脅される…。
鈴は、そういうやつだ。もう少し、可愛げがあればいいのになぁ。
「お待たせ。」
「遅いっ!」
まだ、5分もたってねぇよ。
文句言いつつ、なんだかんだ付き合う俺も俺だよな。
鈴に引きずられ、近くの大型店のバレンタインコーナーへ行く。
「なんかさぁ、こうやってると、カップルみたいだよねぇ。」
「迷惑な話だな。」
「ひっど。いーじゃないのよ、こぉんな可愛い子が彼女なんてっ。」
「自分で可愛い言う奴が、あるか。」
「冷たいなぁ。だから、モテないんだよ。」
「余計なお世話だよ。」
まぁ、確かに彼女いない暦着実に更新してるけど・・・。
お前、見てると怖くなるんだよ…とは、とても言えない。
女ってのは、腹になんか抱えてんじゃないかと、鈴を見てるとそう思う。
鈴は、誰にでもサバサバと付き合うが、俺以外の男子には、愛想がいい。
だが、実際どうだ?いつもあんな調子だ。
「ねぇ〜、どれがいっかなぁ?」
「好きにしろー。」
付き合ってられるか。一緒に来ただけでも、ありがたく思え。
「あ、いいこと思いついた!」
「な、なに?」
嫌な予感。何を言い出す気だ?こいつは。
「ねぇ、交換しようよ。」
「は?何を?」
「バレンタインチョコ。せっかく来たんだし、お互いに買い合うってのどーよ。」
鈴は、いかにも楽しいと言わんばかりに、ニコニコしている。
「お前なぁ。また、突拍子もないことを。」
「毎年あげてるじゃん。義理。」
「何故、俺が、バレンタインにお前にやらないかん。」
「祐樹、いっつもホワイトデー忘れるじゃん。で、その辺にあった飴1個とかじゃん。」
たまには、まともに返しなさいよと、鈴は勝ち誇ったように言う。
ちなみに、祐樹ってのは、俺の名前だ。当たり前だけど。
「や、だってさ、義理だろ?いーじゃん。別に。」
「却下〜。今回ばかりは、祐樹に拒否権はない。」
まぁ、確かに忘れる俺が悪いのかもしれんが…。
「というわけで、20分後に外でね。」
言いたいことだけ言って、鈴はさっさと去っていく。
「あ、おい!こら待て!」
呼び止めるのも空しく、鈴は人ごみに消えた。
ていうか、こんなところで一人にしないでくれ…。
「はぁ。。」
買うしかないんだろうなぁ、この展開は。
ま、なんでもいっか。買えばいいんだし。安いのにしとこう、うん。
20分もかけずに、俺はさっさと売り場を後にした。
外で、鈴が出てくるのを待つ。20分を過ぎたあたりで、鈴がやってきた。
「お、早いねぇ。祐樹。」
「てめぇ、あんなとこで一人にしやがって。」
「社会勉強だと思って。チョコ買った〜?」
「買ったよ。」
「よしよし。じゃ、公園行こう。」
「なぜ、公園?」
「カップルになったつもりで。」
マジで勘弁してくれ…。学校の奴らに見つかったら、確実に冷やかされるぞ。
鈴に強引に連れて行かれ、公園のベンチに二人並んで座る。
「んーっと、じゃ、はい。コレ。」
鈴に、包みを渡される。
「ほら。」
俺も、自分が買ったやつを渡す。が、鈴に押し返された。
「それを渡すにあたって、条件があります。」
「は?」
鈴は、立ち上がると、俺の目の前に立った。
何度か、大きく深呼吸している。ついでに、気合を入れなおしている。
何がしたいんだ?
「それっ!そのチョコ、本命だからね!」
「はっ?」
ちょ、おい、待て待て待て。今、何て言った?
「だからっ、ソレは、返事と一緒に頂戴っ!」
言いたいことだけ言って、鈴は走って行ってしまった。
俺の手には、鈴に貰ったやつと、鈴にあげる予定だっだものがある。
公園に一人ぽつんと残され、俺は、鈴の言葉を反芻する。
本命…?これが?てことは・・・?
「好きな奴って…俺?」
その後、ふらふらと家に帰ってきた俺は、おばさん——鈴の母親から、貰ったチョコが手作りだと聞かされた。

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想――願


最初は石になることを。

その次は死することを。

その次は消えることを。

何も感じなくなってしまえばいいのにとおもった。

死んだら何か変わってくれるだろうかとおもった。

そのことが憎い者への復讐になるかなとおもった。

でもきっとそう思い通りにならないなとおもった。

誰も彼もが私の存在を忘れればいいなとおもった。

誰の記憶からも消えてしまわないかなとおもった。

夜目を閉じたら溶けてしまわないかなとおもった。

存在そのものが消えてしまえばいいなとおもった。

何度も何度も自分を殺してしまいたいとおもった。

でも本当は違う。

誰かに愛されたかったの。

ただ幸せが欲しかったの。

今も望んでいる。

誰かに愛して欲しい。

ただ幸せになりたい。

ただそれだけなのだ。


+あとがき+

様々な想いは、たった1つの小さなささやかな願いから

生まれていたりするものですよねぇ。

狂おしく切ない願い。叶うといいですね。

余談ですが、これ文字数合わせるのすっごく大変だった!(笑)

2015年3月9日 蒼井彩夏

凍 ~Rei~



私は今日、失恋した。

寒風吹きすさぶ中、ぼんやりと夜道を歩く。

あまりの寒さに自分を抱きしめるように腕を組む。

手に持った小さな袋が服にあたって、カサリと音を立てる。

「寒い……」

ぽつりと呟いた言葉は、むなしく冷たい空気に消えていく。

冷えているのは、体だけじゃない。

心も、すっかり冷え切っていた。

ついさっき、私は彼氏にフラれた。

確かに最近喧嘩も多かったし、デートの約束をしても彼が遅刻してくることが多くなっていた。

そのまま、来ない日もあった。

でも、なんとなく、なんとなくだけど、大丈夫な気がしていた。

こんなに仲がいいのだから耐えられる。乗り越えられるって思ってた。

今日は、久しぶりのデート。やっぱり遅刻してきた彼は、少し暗い顔。

眠いのかな?疲れてるのかな?

そんなことを思いながらも、久しぶりのデートに浮かれていた私は

「どこ行く?」なんて呑気に笑いかけてた。

彼は、生返事だった。

でも、最近そんなことも多かったから「疲れてるのかな?」って気にしなかった。

しばらく、ぷらぷらと街を歩いていたら、ふと彼が立ち止った。

人が行きかう街中で、彼と私だけが立ち止っていて、そこだけ時間が止まったようだった。

「どうしたの?」

そう聞いた私に、彼は真顔でこう言った。

「ごめん。別れよう」

本当に、時が止まったかと思った。何を言われたのかわからなかった。

変わらないと信じていたものが崩れ去り、急激に変化した瞬間だった。

ビックリしすぎて、何も言えなかった。彼も、何も言わなかった。

相変わらず私達は立ち止ったまま、きっと時間だけが動いていた。

おもむろに彼が歩き出して、すれ違いざまに私の手を取った。

「駅まで送るから、それでさよならしよう」

「うん……」

聞こえるか聞こえないか位のか細い声しかでなかった。

彼の顔は、見れなかった。

俯いたまま、彼に手を引かれて歩いていく。

なんで?とかどうして?とかそういう気持ちは、湧いてこなかった。

なんとなく、なんとなく大丈夫だと思う気持ちの向こう側で、

もうダメかもしれないって思っていたのかもしれない。

でも、そんな向こう側の気持ちに気付かないように、蓋をするように、

しつこくしつこく連絡し続けて、何度も何度も会いたいって言い続けていた。

どうしても、別れたくなかった。

本当はわかってた。もうダメなんだって。

でも彼が好きすぎて、諦められなかった。ずっと、ずっと傍に居て欲しかった。

不思議と涙は出てこなかった。ただぼんやりと、彼に手を引かれていた。

ふと彼が立ち止った。

「ちょっと待ってて」

そう言って、目の前にあったお店に入って行った彼は、少しして戻ってきた。

手に、小さな袋を持って。

「はい。こう言うの好きでしょ」

「ありがと……」

それが、私達の最後の会話。駅に着くまで一言も言葉を交わすことはなかった。

駅に着いたら、彼はそっと私の手を離して、そのまま振り返りもせずに人混みの中に消えていった。

しばらくぼんやりとその場に立っていたけど、人にぶつかられて、そのままふらりと歩き出した。

そうして今は、駅から家までの道を歩いている。

何を思って何を考えていたのかわからないけど、気がつけば、家はもう目の前だった。

体は芯から冷え切っていて、心もすっかり凍りついてしまった気がした。

家に着いて荷物を放り出してから、彼からの最後の贈り物をあける。

中身は、私の好きなオレンジのクッキーだった。

「最後に優しくすんな馬鹿……」

途端に涙が溢れて来て、声をあげて泣いた。

本当に大好きだった。ずっとずっと、傍に居たかった。

むなしく響く自分の泣き声が、妙に悲しくて、寂しくて心は更に凍っていく。

この凍った心を、誰か溶かして。


+あとがき+

優しさって、時に残酷ですよねーってお話(^ω^)

泣きたい時は、泣いたらいいのです。

きっと彼女の心は、新しい恋と愛が埋めてくれることでしょう(笑)

寒い夜の切ないお話でした。

2015年3月9日 蒼井彩夏

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