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凍 ~Rei~



私は今日、失恋した。

寒風吹きすさぶ中、ぼんやりと夜道を歩く。

あまりの寒さに自分を抱きしめるように腕を組む。

手に持った小さな袋が服にあたって、カサリと音を立てる。

「寒い……」

ぽつりと呟いた言葉は、むなしく冷たい空気に消えていく。

冷えているのは、体だけじゃない。

心も、すっかり冷え切っていた。

ついさっき、私は彼氏にフラれた。

確かに最近喧嘩も多かったし、デートの約束をしても彼が遅刻してくることが多くなっていた。

そのまま、来ない日もあった。

でも、なんとなく、なんとなくだけど、大丈夫な気がしていた。

こんなに仲がいいのだから耐えられる。乗り越えられるって思ってた。

今日は、久しぶりのデート。やっぱり遅刻してきた彼は、少し暗い顔。

眠いのかな?疲れてるのかな?

そんなことを思いながらも、久しぶりのデートに浮かれていた私は

「どこ行く?」なんて呑気に笑いかけてた。

彼は、生返事だった。

でも、最近そんなことも多かったから「疲れてるのかな?」って気にしなかった。

しばらく、ぷらぷらと街を歩いていたら、ふと彼が立ち止った。

人が行きかう街中で、彼と私だけが立ち止っていて、そこだけ時間が止まったようだった。

「どうしたの?」

そう聞いた私に、彼は真顔でこう言った。

「ごめん。別れよう」

本当に、時が止まったかと思った。何を言われたのかわからなかった。

変わらないと信じていたものが崩れ去り、急激に変化した瞬間だった。

ビックリしすぎて、何も言えなかった。彼も、何も言わなかった。

相変わらず私達は立ち止ったまま、きっと時間だけが動いていた。

おもむろに彼が歩き出して、すれ違いざまに私の手を取った。

「駅まで送るから、それでさよならしよう」

「うん……」

聞こえるか聞こえないか位のか細い声しかでなかった。

彼の顔は、見れなかった。

俯いたまま、彼に手を引かれて歩いていく。

なんで?とかどうして?とかそういう気持ちは、湧いてこなかった。

なんとなく、なんとなく大丈夫だと思う気持ちの向こう側で、

もうダメかもしれないって思っていたのかもしれない。

でも、そんな向こう側の気持ちに気付かないように、蓋をするように、

しつこくしつこく連絡し続けて、何度も何度も会いたいって言い続けていた。

どうしても、別れたくなかった。

本当はわかってた。もうダメなんだって。

でも彼が好きすぎて、諦められなかった。ずっと、ずっと傍に居て欲しかった。

不思議と涙は出てこなかった。ただぼんやりと、彼に手を引かれていた。

ふと彼が立ち止った。

「ちょっと待ってて」

そう言って、目の前にあったお店に入って行った彼は、少しして戻ってきた。

手に、小さな袋を持って。

「はい。こう言うの好きでしょ」

「ありがと……」

それが、私達の最後の会話。駅に着くまで一言も言葉を交わすことはなかった。

駅に着いたら、彼はそっと私の手を離して、そのまま振り返りもせずに人混みの中に消えていった。

しばらくぼんやりとその場に立っていたけど、人にぶつかられて、そのままふらりと歩き出した。

そうして今は、駅から家までの道を歩いている。

何を思って何を考えていたのかわからないけど、気がつけば、家はもう目の前だった。

体は芯から冷え切っていて、心もすっかり凍りついてしまった気がした。

家に着いて荷物を放り出してから、彼からの最後の贈り物をあける。

中身は、私の好きなオレンジのクッキーだった。

「最後に優しくすんな馬鹿……」

途端に涙が溢れて来て、声をあげて泣いた。

本当に大好きだった。ずっとずっと、傍に居たかった。

むなしく響く自分の泣き声が、妙に悲しくて、寂しくて心は更に凍っていく。

この凍った心を、誰か溶かして。


+あとがき+

優しさって、時に残酷ですよねーってお話(^ω^)

泣きたい時は、泣いたらいいのです。

きっと彼女の心は、新しい恋と愛が埋めてくれることでしょう(笑)

寒い夜の切ないお話でした。

2015年3月9日 蒼井彩夏

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