「勿忘草Memory1」紹介ページ


文庫サイズ/p.82*通販はこちら
イベント頒布価格:500円/通販価格:600円

+キーワード
魔女/ファンタジー/ほのぼの/人外/短編集

+あらすじっぽいもの
願いを叶える魔女ソフィアと願いを抱えた人々の心温まる物語

+収録内容
・大人と子どもの擦れ違いが生んだ切ない願い。初めてのお客様とのお話。
(テキレボアンソロ「初めての××」投稿作品再録)
・失った物を取り戻す必死の願い。形なきものを取り戻したい演奏家とのお話。
(テキレボアンソロ「再会」投稿作品再録)
・冗談が本気になってしまった夢あふれる願い。異世界から来た女子高生とのお話。
(Text-Revolutions内有志企画「第1回300字ポストカードラリー」参加作品再録+書き下ろしアフターストーリー)
・おまけ小話「ある研究者の覚書」(書き下ろし)

+登場人物紹介
魔女ソフィア:女性ということ以外全てが謎に包まれた魔女。見た目は20歳くらい。願いを叶える魔女として噂になっている当本人。表向きは小さな村の茶屋の娘だが、魔女の店「忘れ草」を経営。迷い悩める人々の願いを叶えている。(願いを叶えるだけなので良い方向に導いたりはしないあたりが魔女って感じ)

お客様たち:色々な願いを持った人たち。どんな人かは本編で確認だ!

手紙屋:猫耳&尻尾のついた少年。魔女や人外たち御用達の運び屋さん。ソフィアの弟子だったことがある。子どもっぽく見えるのは猫同様マイペースだから。かなり年食っている。

悪魔ミライ:何かとソフィアに絡んでくる悪魔。手紙屋に目の敵にされている。

+収録内容お試し読み

私には、幼い頃から繰り返し読んでいるお気に入りの本がある。様々な魔法が書かれた「魔道書」というタイトルのソレ。中でも最も心惹かれたのは、異世界への行き方。
そんな事、あるはずがない。
けれど、本当に異世界があるなら行ってみたいという無邪気な好奇心が高校生になった今も消えない。暇な夏休み。パラリとそのページを開いて、方法を確認する。
「やってみるか」
床に黒いマジックで魔法陣を描く。中央に白薔薇を置き自分の血を垂らす。後は呪文を言うだけ。
「異世界へ」
魔法陣が光り始め、目も開けていられない程の光が辺りを包んだ。光が消えた後、そこには何もなかった。魔法陣も彼女の姿も何もかも。

本――それは、異世界への扉。

× × ×

見上げれば、どこまでも広がる青い空。真っ青な空に映える鮮やかな緑の葉。頰にあたる風が心地いい。
(ここ、どこだろう?)
森の中にぽっかりと空いた空間に、少女はぽつんと座り込んでいた。ガサリと音がして、少女はびくりと肩を震わせる。おそるおそる後ろを振り返ると、茂みからひょっこりと獣のような耳と丸い目がのぞいていた。
「え、猫?」
じっとこちらを見つめてくる丸い目。なんとなく目をそらせずに、少女もじっと丸い目を見つめる。ふいに目が動いたと思ったら、ひょっこりと茂みの陰から姿を表した。
「え? は? え?」
茂みから出てきたのは、頭に猫みたいな尖った耳をくっつけた異様な姿をした「少年」”だった。尖った耳だけでもおかしいのに、少年は左右の瞳の色は違うし、頰には大きな傷痕もある。体の横からは、ゆらゆらとゆれる細長い尻尾も見える。
「こ、こすぷれ???」
呆然とする少女に、少年は何やら言葉をかけてくる。が、少女には全く言葉の意味はわからない。少年は何やら話しながらどんどん近づいてくる。
「え、ちょ、何? 意味わかんない」
牙を見せて、少年が笑う。少年が、少女の肩にポンと手を置いた。
「ひ、ひゃああああぁああ」
少女は悲鳴をあげて少年を突き飛ばす。コロリと後ろに倒れた少年は、ぽかんと口を開けて少女を見る。
「あ、ご、ごめん」
少年は不満そうに頬を膨らませて、耳をぺたりと頭にくっつけ、尻尾でベシベシと地面を叩いている。
(お、怒らせちゃった)
見ず知らずの――人なのかどうかもわからないものを怒らせてしまった恐怖が、じわじわと少女の中に広がっていく。おろおろと辺りを見回していると、バサリと音がして、目の前に黒ずくめの男が現れた。
「こ、今度は何?」
少年よりは年上に見えるその男は、真っ赤な瞳をしていて、翼のようなものがくっついている。男はしばらく少女を眺めていたが、ゆっくりと少女の方へ近づいてくる。と、少年の声が聞こえてくる。男は少年の方を振り返り、二人は言い争いを始めたようだった。
(い、今のうちに逃げちゃおうかな)
そう思い、二人に背を向けようと動こうとしたが、いつの間にか少女の身体は動かなくなっていた。
「あ、あれ?」
声は出る。目線も動かせる。が、身体が動かない。恐々目線を動かせば、男とばっちり目が合ってしまった。
「あ……」
最早目線すら動かすこともできず、ゆっくりと男が近づいてくるのを見ているしかできない。男が、少女に手を伸ばす。刹那、バチンと小気味いい音と共に男の手がはじかれる。一切の音もさせずに、少年は少女と男の間に割って入っていた。
(助けて、くれた?)
気が遠くなっていくのを感じながら、少女は少年の後姿を見つめていた。少年は後ろを振り返る事なく、スッと男に向けて右手を翳す。少年の詠唱に合わせて、次々と魔法陣が現れる。
男は面倒くさそうに舌打ちし、空へと飛びあがる。少年はすかさず男の方へ手を動かす。詠唱を終えると同時に、少年が生み出した魔法陣から鋭い雷が放たれ、辺り一面が激しい光に包まれる。
「逃げられた」
イライラしたように少年は呟いて、小さくため息をついてから、少女の方へ向き直る。少女は草の上に倒れこんでいて、動く気配がない。少年は慌てて少女の元へ駆け寄り、声をかける。
「大丈夫? しっかりして!」
少しゆすると、くぐもったような声が聞えてきて、少年はホッと胸をなでおろす。
「生きてる。あいつのせいか? それとも光にやられたのかな? だとしたら、おいらのせいか」
少年は少女の傍に座り込み、考え込むように腕を組む。尻尾をゆらゆらと揺らしながら、ぶつぶつと独り言を言い始める。
「怪我ならクレアさんの所だけど、言葉がなぁ。だとしたらあそこか……でもなぁ、あいつが行っている可能性もあるし」
うーんと唸りながら尻尾で地面をぺしぺしと叩く。
「考えていてもしょうがないか。また突き飛ばされても嫌だし、今のうちに運んじゃおう」
そう大きな独り言をつぶやいて、少年は軽々と少女を持ち上げる。大きな荷物を抱えるように少女を肩に担いで、地面を蹴って木から木へと飛び移りながら、森の中へと入っていく。
目指すは、魔女の居る村ヤイネ。

× × ×

「とまぁ、そういう訳なんですよ」
手にしたカップにふーふー息を吹きかけながら、少年は魔女ソフィアの方を見る。
「なるほどね。急に女の子抱えてくるからびっくりしたわ」
ソフィアはベッドに寝かせた少女の手を取り、怪我の有無なんかを確認しながら少年を横目で見やる。見た目十歳やそこらの少年なのに、それだけの力があるっていうのは魔力がなせる業だろうかなんてことを考えていると、目があった少年が苦笑いを浮かべる。
「あいつのせいなら放っておけないし、おいらのせいなら尚更ですよ。それにあんなところに女子ひとり置いていけないですしねぇ」
耳をぺしょっと垂れさせて美味しそうにカップに口をつける見た目相応の仕草と、およそ少年とは思えない言い草に、ソフィアは思わず苦笑する。一通り少女の状態を確認して、ソフィアは手紙屋と向かい合うように椅子に座る。
「怪我はないようだし、大方悪魔に気力を持って行かれたのね。その内目を覚ますわよ」
「よかったぁ。おいらのせいだったらどうしようかと」
安心したのか、少年はずるずると体制を崩す。
「で、手紙屋さん。この子どうするの?」
「どうしましょう? 言葉も通じないみたいですし。困った困った」
いたずらっぽく笑いながら、口では困ったという少年――手紙屋にソフィアはいぶかしむような視線を向ける。
「どうしてうちに?」
「ソフィアさんなら何とかしてくれるんじゃないかと思って。あ、ちゃんとお代は払いますよ」
楽しそうにあっけらかんとそういう手紙屋に、ソフィアは思い切りため息をつく。