「陽だまりの影で口づけを」紹介ページ


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イベント頒布価格:700円/通販価格:800円

+キーワード
花マップ/チューリップ/しんどい/恋愛(多分)/身分差の恋/坊ちゃん×メイド

+あらすじっぽいもの
四年前、火事で両親を亡くした(※)リーナは、
恋人のアルベルトの計らいで彼の住む屋敷でメイドとして働くことになった。
四年も経てば仕事にも慣れてくるし、新しい生活にもある程度慣れてくる。
けれど、あの日の悲しみはまだ消えてはくれないし、恋人とはいえ、
お屋敷の坊ちゃんとメイドという身分差が生まれてしまったことにも悩むリーナ。
そんなリーナをよそに、アルベルトは着実にリーナとの結婚話を進めていた。
坊ちゃん×メイドの身分差の恋、ここに終結。

と見せかけて、偶然四年前の真実を知ったリーナの静かな復讐の物語。

「私の両親は殺された。愛する人の両親に」

(※)火事があった時のお話はText-Revolutions公式アンソロ「花」に投稿した作品と同じお話です。

+登場人物紹介
リーナ・エンデ:街の大家の娘だった。四年前の火事で両親も屋敷も失い恋人の家でメイドをしている。

アルベルト・カナリス:リーナの恋人でカナリス家の跡取り息子。リーナを溺愛。

+冒頭お試し読み
一章 いつもの朝

薄く開けられたカーテンの隙間から朝日が差し込み、ベッドに横になるリーナの顔を優しく照らす。ちょうどよく計算されて開けられた隙間からの光は、リーナだけを照らし、横で眠るもう一人には当たらない。
街外れにあり、木々に囲まれた広大な屋敷であるここでは、街の喧騒や時を告げる鐘の音は聞こえてこない。この朝日と木々に住まう鳥たちのさえずりが、リーナの目覚まし時計だった。
「んー……朝か」
 朝日の眩しさに目を擦り、その眩しさから逃げるようにリーナは寝返りを打つ。こつりと何かにあたった感覚がして、そっと目を開ける。目の前には、大きな背中。隣で眠るその背中に、そっと額を擦りつける。朝に弱いその人は、この位で起きてはこない。それでも何か当たっている位の感覚はあるらしく、身をよじって布団を深くかぶる。その様子に頬が緩むのを抑えながら、リーナはそっとベッドを抜け出す。
 開いていたカーテンを閉め直し、未だにベッドの上で眠るその人の頭をひと撫でする。愛おしそうに撫でるその姿は、誰にも見られてはいけないものであると、リーナは知っている。
(まぁ、周知の事実なんだけど)
 ベッドで眠るその人は、この屋敷の主であるカナリス家の一人息子、アルベルトだ。そして、リーナはアルベルト付きのメイドである。
 リーナの朝は、このアルベルトを起こすことから始まる。けれど別に、朝起こすために共寝している訳ではない。そもそも、リーナ達メイドが起きる時間帯に、ただでさえ朝に弱いアルベルトが起きることはないし、なんなら朝日に起こされるのも嫌がるので、毎晩アルベルトに日が当たらないように計算してカーテンを開けている。それでも、アルベルトは一緒に寝たがる。何故かと問われた時のアルベルトの答えはいつも一緒だ。
「恋人同士なんだからいいだろう」
 口癖と言っても過言ではないこの一言で、リーナがアルベルトの部屋で寝泊まりすることが決定した。一応、メイドとして与えられている部屋はあるのだが、アルベルトはそちらで過ごすことをよく思っていない。
(ちょっと、主従関係を悪用しすぎじゃないかしら)
 そう思うことが無い訳ではないし、メイドという立場上控えるべきだというのも、リーナは理解している。してはいるが、リーナにはそのアルベルトの言葉に甘えたい気持ちもあった。
 恋人同士であるのは、命令でも、アルベルトの思い込みでもない。リーナは、ここでメイドとして働くようになる前から、アルベルトの恋人だった。もっと言えば、元はカナリス家と並ぶ裕福な家の娘だった。
かつて対等な立場であった恋人と最早対等な立場ではなくなった事を分かってはいるが、アルベルトが許してくれる限り、対等な恋人同士で居たいのがリーナの本音だ。
とはいえ、自分の立場が良くないのも重々承知しているし、アルベルトにも何度苦言を呈したか分からない。せめてもう少し人目に付かず、こっそり静かに付き合いたいのだが、アルベルトはどこ吹く風と言った感じで、全く控える気がない。そんなアルベルトの態度が嬉しい反面、あまり互いの立場を悪くしないで欲しくもあり、リーナは度々頭を抱えていた。
恋人の寝顔を少しだけ堪能して、リーナは静かに部屋を出る。共寝はするが、着替えも私物もすべて使用人用の自室にある。
誰かに見られないように素早く自室に戻り、テキパキと着替えを済ませ、髪を整える。かつては自分付きのメイドにしてもらっていたことも、すっかり自分でできるようになった。
「もう何年になるのかな」
 テーブルの上に伏せられた写真立てを指でなぞる。アルベルトがくれたものだが、両親を亡くしたあの事件以来、一度も目にしていない。数年たった今も、見る勇気が持てなかった。
「よしっ。大丈夫。今日も頑張ろう」
 頬を叩いて気合を入れて、部屋を後にする。
 今日もまた、変わらない一日が始まる。
「おはようございます」
 挨拶と共に、リーナは調理場の扉を開ける。調理場と言っても、使用人たちの食堂も兼ねたそこは、朝ごはんのいい匂いで満ちていた。
 忙しそうに動く料理人達を避けながら、身支度を終えたメイドや執事達が集まるテーブルへ向かう。
 すでに食事を始めているもの、夜勤明けで眠そうに突っ伏しているもの。仕事の時間がバラバラな使用人たちは同じ時間に食卓を囲むわけではない。とはいえ、使用人たちの休憩場所がここしかないので、自然と使用人たちが一堂に会するようになっている。
 使用人用に用意された朝食を受け取り、リーナは空いている席を探す。きょろきょろと辺りを見回していると、執事服に身を包んだ老齢の男と目が合う。
(しまった)
「リーナ・エンデ」
 低い声でそう名を呼ばれて、こっちにこいと視線だけで命じられる。リーナは気づかれないように小さくため息をついて、男の方へ歩いていく。周りのメイド達の視線が痛い。
「なんでしょうか、執事長」
 テーブルの空いた隙間に持っていたトレイを無理矢理置いて、姿勢を正して執事長のブレンティスと向き合う。リーナはこの男が好きではなかったし、執事長自身もリーナをよく思っていないのは明白だった。
「昨晩は自分の部屋で休んだんだろうな?」
 鋭い目つきに、わざわざ眼鏡をクイと押し上げて周りにも聞こえるように言い放つ執事長に、リーナは毅然とした態度で接する。
「いいえ、執事長。アルベルト様のご希望で共に休みました」
 リーナの言葉に、眉間にしわを寄せるものもいれば、面白そうにクスクスと笑いだすものもいる。もっとも、毎朝恒例となっているこのやり取りへの笑いは、またやってるよという呆れた笑いだが。決して、どちらの味方でもない彼らは遠巻きに見ているだけで害はない。リーナも周りの声には聞こえない振りをする。
 リーナの言葉に余計に目を吊り上げた執事長は、何か言おうと口を開け、勢いよく立ち上がる。まさに怒鳴り声をあげんとしたその時、リーナが身構えるより先に、メイド長が間に割って入る。
「毎朝同じことを聞いてよく飽きないわね。アルベルト様がそうお望みなのだから、あなたが口出すことではありませんよ」
 呆れた笑顔を浮かべたメイド長がそうやって割って入るところも毎朝のことだが、本当によく飽きないなとリーナも心の中でメイド長に賛同する。
「しかしだなメイド長。メイドの立場というものがある。何より執事長としてそう言ったことはだな」
 くどくどと小言を始める執事長を横目に、メイド長はリーナに話しかける。
「リーナ。今日は急な来客が入ったそうだから、いつもより早めにアルベルト様の支度をしてちょうだい」
「かしこまりました。お客様はどなたでしょう? 服装の指定はございますか?」
「そうねぇ。……いつも通りでいいわ」
「そうですか? ではそのように」
 妙な間を開け苦笑するメイド長に違和感を覚えつつ、返事をする。
「こちらは私が収めますから、早く行きなさい」
「はい、メイド長」
 メイド長に後を任せその場を辞するリーナに、執事長が話は終わってないと詰め寄ろうとする。が、あっさりメイド長に阻まれ、リーナはその隙にトレイを手に調理場へと戻る。
(朝ごはんどうしよう。サンドイッチにして部屋でさっと食べようかな)
 そんなことを考えながら調理場に空いた場所があるか探していると、料理メイドのアリシアがトレイを持って近づいてくる。
「リーナそっち貸して。それは私が食べるから。あんたはこっち」
 二人分の朝ごはんが乗ったトレーを押し付けて、アリシアはリーナが持っていたトレイを取り上げる。
「ありがとう。でも、なんで二人分なの?」
「アルベルト様のご機嫌取り」
「あー……」
 真顔でそういうアリシアに苦笑を返す。
 アルベルトは朝が弱い。恋人であるリーナが起こしても、機嫌が悪い時がある。そんなアルベルトをいつもより早く起こすのだから、機嫌が悪くなるに決まっている。
 要するに、いつものようにバラバラに取らず、せめて二人で朝食を取って少しでも機嫌を取っておけということらしい。もう一度アリシアに礼を言うと、アリシアがそっと耳打ちしてくる。
「今日、お見合いらしいから」
「え……そう、なんだ」
 眉間にしわを寄せるリーナの肩を、アリシアはぽんぽんと叩く。
「アルベルト様はカナリス家の一人息子だし、そういう話も出るんだろうけどさ。だからと言って、ねぇ。恋人がいるってのに、旦那様も執事長も何考えているのかしら」
 食堂にいる執事長に聞こえないよう声を潜めるアリシアに、仕方がないよとリーナは笑う。
「やっぱり、いいとこのお嬢さんを迎えて欲しいのよ」
(私だって、そうだったんだけどな)
 アルベルトの父親と執事長は、良い所のお嬢さんを嫁として迎えて欲しいと切に切に願っている。当然、現在のリーナとアルベルトの交際には猛反対している。
かつてのリーナであれば、十分候補者となり得ただろうが、今はただのメイド。他のお嬢さんたちと肩を並べられる立場にない。分かってはいるが、恋人がお見合いをするのは気持ちのいいものじゃない。例え、断ってくれると分かっていても。
「アルの機嫌が悪くなるのが目に見えるわ」
「本当よね。アルベルト様のお好きなお茶でも淹れてく?」
「そうする」
 リーナは、アリシアの前ではアルベルトのことを愛称の「アル」と呼ぶ。ほぼ同時期に入ったアリシアはリーナの事情をよく分かってくれており、また二人の関係を応援してくれている唯一の人だった。リーナもアリシアにだけは心を開いて接している。
 アリシアがお湯を沸かしに行っている間に、お茶を淹れる用意をする。二人で用意を済ませ、健闘を祈る! と笑うアリシアに背中を押され、アルベルトの部屋へ向かう。
 正直言って、足取りが重かった。相手のある事だし急がなくてはいけないのは分かっているが、恋人がお見合いをする為の用意をするのも、その為にいつもより早くアルベルトを起こすのも憂鬱だった。
(あの事件以来、アルも変わった気がする)
 笑わなくなったし大人しくなった。あの事件以来、リーナはアルベルトによくそう言われていた。一方のアルベルトも以前とは違って、怒りやすくなったようにリーナは感じていた。
(家が好きじゃないって言っていたし、元々家ではそうだったのかもしれないけど)
 もっとも、怒るのはリーナに対してではないので、二人きりの時はこれまでと変わらず優しく穏やかな笑顔を向けてくれている。機嫌の悪くなる出来事がなければ。
 お見合いは、今日が初めてではない。この数年、何度か行われている。その度、適当に理由をつけてアルベルトは断っていた。最初こそ不安になってアルベルトに泣きついたりしていたリーナも、今となってはアルベルトが不機嫌になる方が面倒くさくてたまらない。決してリーナに当たったりはしないが、不機嫌そうな恋人を見ているのはしんどいものがある。
 意を決して、コンコンと軽くノックをして扉を開ける。自由に出入りしていいとは言われているけど、礼儀というやつだ。
「失礼します」
 こんな声かけで起きないのは百も承知だが、これもまた礼儀というやつである。
 部屋の丸テーブルに朝食ののったトレイを置く。そろりと忍び足でベッドに近づいて、ベッド端に腰かける。スース―とアルベルトの寝息だけが聞こえる静かな部屋で、アルベルトの頬にそっとキスをする。
「さて、起こしますか」
 ベッドから降りて、カーテンを勢いよく開ける。シャッと小気味いい音と共に、柔らかい朝の陽ざしが部屋いっぱいに広がる。ついでに窓も開けて、新鮮な空気を部屋に迎える。
「おはようございます。アルベルト様。今日も良いお天気ですよ」
 窓際に立ったままメイドよろしくアルベルトにそう声をかけるが、微かに身じろぎしただけで、起きる気配は全くない。
「アルベルト様、朝ですよ。起きてください」
 今度はベッドサイドに立って、頭の上から声をかける。アルベルトは薄っすらと目を開けて、リーナの姿を確認すると再び目を閉じる。
「その起こし方嫌だ」
(そう来るか)
 やれやれと肩を竦めて、もう一度ベッド端に腰かける。
 何度も言うが、アルベルトとリーナはメイドと主人という主従関係以前に、恋人同士なのだ。リーナとしては、仕事中は一応、主従関係を優先したいのだが、アルベルトはそんなことは知らないといった様子で、いつ何時も恋人であることを求める。だからこそ、先ほどの起こし方が不服だったのだろう。
「起きて、アル。朝よ」
 一度座りなおして、アルベルトに覆いかぶさるようにして耳元で囁く。アルベルトはころりと寝返りを打ってリーナの方を向くと、そのまま腕を伸ばしてリーナを引き寄せる。バランスを崩したリーナは、そのままベッドに横たわる。
「もう、アル」
 文句を言いつつ起き上がろうとするリーナを抱きとめて、アルベルトは頬に額に唇にとキスを落としていく。
(起きていたんじゃないの?)
 ちょっと疑うようにアルベルトを見やるが、何? と首を傾げられて終わってしまう。それにしても、朝早く起こしたにしては機嫌が良さそうだった。
 よかったと胸をなでおろして、アルベルトの腕から抜け出す。満足したのか、今度はあっさり手を離す。
「おはよう、リーナ。まだ早くない?」
 ようやく体を起こしたアルベルトに、リーナはにっこり笑いかける。
「今日は朝ごはんも一緒だからよ。ほら、早く起きて顔洗って。朝ごはんにしよう」
「珍しいね。どうしたの?」
「今日はお客様が来るんですって。私も朝ごはんまだだったから、一緒に食べようかなって」
(お見合いのことはまだ黙っておこう)
 ベッドから離れると、リーナはテキパキと朝ごはんの用意を始める。まだ眠気が覚めていないのか、そんなリーナをアルベルトはぼんやりと眺める。
 自分の家のメイド服に身を包み、自分の世話を焼くリーナの姿を見るたび、アルベルトは胸が締め付けられるような気がしていた。
(こんなはずじゃなかったのに)
 後悔とも無力感ともいえない感情を、この数年ずっと持て余していた。それをぶつける場所もなくて、つい周りに当たってしまう自分がまた情けなくて、ただただ頭を抱える日々だ。
 のっそりベッドから起き上がって、立ち働くリーナを抱きしめる。
(これ位しか、してやれない)
「どうしたの? アル。まだ眠いの?」
 クスクスと楽しそうに笑うリーナに、アルベルトは曖昧な笑みを浮かべる。
「そうかも。というか、いつもより一時間以上も早いじゃないか。誰が来るの?」
「さあ?」
 壁にかかった時計に目をやって、不服そうな顔をするアルベルトにリーナは素知らぬ顔をする。お見合いだなんて知った瞬間に、機嫌が急転直下するのは目に見えている。できれば、着替えが終わるまでは黙っておきたかった。
「……知らないってことは、大した用じゃないな。寝る」
「え? ちょっと、アル!」
 リーナは慌ててアルベルトの方を見るが、アルベルトはさっさとベッドに戻って布団の中に潜り込んでいる。
(まぁね。すんなり起きるとは思ってないけど)
 ため息をつきながら、ベッドの方を見やる。
(さて、どうしようかな。甘え倒すかたたき起こすか)
 ふむと首を傾げながらしばし考える。ただのメイドなら困り果てるしかない状況だが、幸いなことにリーナはアルベルトの恋人。二人きりの時なら、何をしても咎められることはない。
 ひとまず甘え倒してみようと決めて、リーナはベッドの丸いふくらみに寄りかかって声をかける。
「アル、起きて。せっかく一緒に朝ご飯食べられるんだから」
 起きてともう一度囁く。アルベルトはダルそうに寝返りを打って、自分の上に寄りかかるリーナの頭を撫でる。
「リーナ」
「なあに?」
「重い。太ったんじゃない?」
「はい?」
 ニコリと笑顔で聞き返すが早いが、リーナはアルベルトの枕を勢いよく引っこ抜いて、バシバシとアルベルトにたたきつける。
「いった! ちょっ、リーナ」
「ひどい! いくら早く起こされたからって、そんなこと言
う!?」
 信じられない! とバシバシ枕で殴り続けるリーナから逃げるように、アルベルトはベッドから這い出す」
「ごめんて! 痛い痛い! 冗談だって!」
 機嫌悪そうにアルベルトを睨みつけるリーナとは裏腹に、アルベルトは少しだけホッとする。機嫌悪いのにホッとするなんていうのもおかしな話だが、元々リーナは感情豊かで、思ったことをそのままストレートにぶつけてくるタイプだった。ただおしとやかに微笑むなんて柄じゃなかった。だから、メイドよろしく微笑むリーナを見ているよりも、こうして感情むき出しにしているリーナの方がアルベルトは好きだし、何も変わっていないと安心できた。
「さて、起きたみたいですし? さっさと顔洗ってきてください、アルベルト様」
 最後と言わんばかりに、起き上がったアルベルトに枕を投げつけて、リーナは朝ごはんの用意に戻る。
「はーい」
アルベルトが顔を洗って戻ってくる頃には、テーブルにきちんと朝ごはんが並べられていた。
リーナと二人、テーブルを囲んで朝ごはんを摘まむ。メイドであるリーナとこの屋敷の子息であるアルベルトでは、本来は用意されるものが違う。が、今日はアリシアが気を遣ってくれたらしく、二人ともサンドウィッチとスープというメニューになっていた。もちろん、入っている具材に差はあるが。
「リーナ、一個交換しよ」
「そういうの要らないって言ってるでしょ」
「そっちが食べたいだけ」
 そう言って、アルベルトはリーナの分と自分の分を入れ替える。その気遣いが嬉しくもあり、身分の差を思い知らされているような気もして、リーナは複雑だった。
「今日誰来るの?」
「さあ?」
「本当に知らないの? 服用意するのリーナでしょ?」
 サンドウィッチ片手にじっとリーナを見るアルベルトをそっとスルーして、リーナは紅茶を口にする。アルベルトは怪訝そうな顔をしたまま、サンドウィッチを口に放り込む。
「まぁいいけど。あ、そうだ。リーナ、今日の午後出かけない?」
「午後? 急だね」
「しっかり予定組んでいると、邪魔されるでしょ。久々にデートしようよ」
 にっこりと笑うアルベルトに、リーナは笑顔でうなずく。
「遠乗りしよう。おやつ持って行ってさ。あ、あと花もね」
「花?」
「うん、リーナの両親の好きな花にしよう」
「お墓に寄るの? 命日まだだよ」
「分かっているけど、寄りたいんだ」
 そう言って優しく微笑むアルベルトに首を傾げつつも、リーナはわかったと伝える。朝食が終われば、アルベルトにお見合いのことを伝えなければいけないのは憂鬱だが、午後にデートできるとなれば頑張れる。リーナはアルベルトに気づかれないように、こっそり心の中でガッツポーズした。