Again(月森×日野)

「蓮くんに会いたくて、頑張ったんだよ。」

そう伝えたら、どんな顔するかな?
怒られるかな?呆れられるかな?
それとも、喜んでくれる…かな?

そんな事を考えながら、大学への道のりを歩く。
見知らぬ街。見知らぬ人々。
「やっぱり、日本とは違うよね…。」
あたりをキョロキョロと見ながら呟く。
私は今年一年間、ウィーンの大学で交換留学生として、過ごすことになっている。
昨年、大学に入学してすぐに、留学生募集の掲示を見つけて必死に勉強した。
ヴァイオリンの技術も語学力も、他の学生より劣っていた…と思う。
その辺は、努力でカバーするしかない!と、この一年必死になった。
そして、見事に留学が決定!
蓮君と同じ場所で学べることが、何より嬉しい。
目の前に広がるキャンパスにドキドキする。
あちこちから聞こえる楽器の音。
そして、その中に、懐かしいヴァイオリンの音。
「蓮君だ…。」
懐かしい音色に、一気に心拍数が上がる。
気がつけば走り出して、音の主を探していた。
木々に囲まれ少し奥まったそこに、懐かしい青い髪。
「蓮君…。」
ポツリとつぶやいた声は、彼に届いたようで。
振り返った彼は、ぽかんとしていた。
「香穂子?」
静かに響く声に、胸がいっぱいになる。
会ったら開口一番「会いたくなってきちゃった」とか冗談を言って、驚かせようと思ってたのに。
懐かしい音に、声に、姿に、何も言えなくなる。
代わりにこぼれたのは、涙だった。
蓮君は、驚いたように少し目を見開いて、私に近寄ってくる。
「香穂子。」
もう一度名前を呼ばれて、顔を上げる。
蓮君は、困ったような顔で、そこに立っていた。
何か言わなきゃと思うのに、頭の中はぐるぐるしていて、言葉にならない。
ようやく言えたのは、たった一言。
「会いたかった。」
そう言ったら、蓮君は柔らかく微笑んで、そっと私の涙を拭ってくれた。
「俺もだ、香穂子。どうして、ここに?」
「あ…あのね。」
私は蓮君に、自分が交換留学生であること、一年間ここで学ぶことを話した。

蓮君に会いたくて頑張ったんだ。

なんてことは、結局言えなかったけど。
冗談めかして「追いかけてきちゃった」とだけ言った。
蓮君は、「そうか」としか言わなかったけど、きっと喜んでくれてるはず。
だって天羽ちゃんがいたら、絶対激写してるだろうなってくらい、とびきりの笑顔を見せてくれたから。
「香穂子。」
「ん?」
「カフェにでもいかないか?君と、ゆっくり話がしたい。」
「うんっ。」
「香穂子。手を。はぐれるといけないから。」
差し出された蓮君の手を、そっと握る。
今、二人とも顔赤いんじゃないかななんて思って、ちらりと蓮君を見たらばっちり目が合った。
なんだかくすぐったくて、嬉しくて、二人で笑った。
願わくはどうか、つないだこの手が、二度と離れませんように。

初公開:2010年7月19日

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