サプライズ(月森×日野)

蓮君が留学して、早1ヶ月…弱。

蓮君のいない寂しさと、練習の物足りなさには、まだ慣れない。

そんな中差し迫る、蓮君の誕生日。

「ウィーンに荷物届くまで、どれ位だったかなぁ?」

以前、王崎先輩の誕生日の時のことを、思い返す。

「まぁでも、誕生日ぴったりにってのは、難しいよねぇ。」

ぶつぶつと呟きながら、楽譜をめくる。

誕生日プレゼントは、もう買ってある。

“Len”と、名前の入った万年筆。

ラッピングもして、カードも添えて、あとは出すだけ…なんだけど。

出すタイミングがつかめない。

1週間前くらいなら、ちょうどいい…かなぁ?

「えーっと、ここはどうやって弾いたらいいんだろ?」

楽譜とにらめっこしながら、時々弾いてみる。

蓮君と一緒に練習していた時は、蓮君に教えてもらってた。

それこそ、蓮君の練習時間削ってないかなぁ?と心配になる位。

蓮君は、気にしなくていいって言ってくれてたけど…ね。

「蓮君のヴァイオリン、聞きたいなぁ。」

ん…?ヴァイオリン…そうだ!

「うんっ。そうしようっ。そうと決まれば…。」

鞄の中をあさって、お目当ての楽譜を取り出す。

その日の帰り、蓮君へプレゼントを送った。

あとは、誕生日当日を待つのみ。

* * *

蓮君の誕生日、当日。時刻は、17:30。

「かっなやんっ。」

だるそうに、森の広場で猫と戯れてる音楽科教師に声をかける。

「おぉ、日野。なんだぁ、面倒事ならお断りだぞ~。」

「かなやん。今日さ、下校時間過ぎまで、練習したいんだけど。」

「ん?なんでだ?別に、コンサートがあるわけでもないだろ?」

「今日だけ!お願い!」

「わぁったよ。ただし、30分だけだ。」

「ありがとう、かなやん!」

これで、準備はOK。走って、練習室まで戻る。

調弦をすませて、携帯を取り出す。

「えーっと、時差は8時間…だったよね。」

蓮君のことだし、もう起きてるよね。

携帯をグランドピアノの上に置いてから、蓮君に電話をかける。

『もしもし。香穂子?』

蓮君が出たのを確認してから、ヴァイオリンを構える。

電話の声には答えずに、ヴァイオリンを弾き始める。

曲は、愛の挨拶。

蓮君に届くように、想いをこめて。

弾き終えて、ヴァイオリンを置いていると、電話ごしに蓮君の声が聞こえる。

『香穂子。』

慌てて携帯をとる。

「蓮君、お誕生日おめでとうっ。」

『あぁ…そうか。』

蓮君は、私が何で電話をしたのか、わかってなかったみたい。

『ありがとう、香穂子。』

「えへへ。驚いた?」

『あぁ。だが、久しぶりに君の音が聞けた。』

「私も、蓮君の音聞きたいなぁ。」

『俺も、何か弾こうか?』

「本当!?」

『あぁ。今用意するから、少し待っててくれ。』

「うんっ。」

しばらくの沈黙のあと、蓮君のヴァイオリンの音が聞こえてくる。

曲は、私と一緒。愛の挨拶。

(やっぱり、蓮君の音好きだなぁ。)

『ちゃんと、聞こえただろうか?』

「うん。ありがとう。あ、そうだ。プレゼントそのうち届くと思うから。」

『ありがとう、香穂子。』

「どういたしまして。」

声を聞くと、会いたくなる。

でも今は、蓮君の声と蓮君のヴァイオリンが聞けただけで、満足。

「おーい、日野。そろそろ閉めるぞー。」

「げっ、かなやん。」

『もう、下校時間か。』

「あ、うん。もう帰らなきゃ。」

ちらりと、かなやんの方を見ると、呆れ顔。

練習じゃないの、バレちゃったなぁ。

『そうか。帰り、気をつけて。』

「うん。…また、電話してもいいかな?」

『もちろん。俺も、電話する。』

「うんっ。じゃぁ、また。」

『あぁ。香穂子。』

「ん?」

『愛してる。』

「ん。私も。」

おやすみを言ってから、電話を切る。

上手くいってよかったぁ。

「お前さん、練習じゃなかったのか~?」

にやにやと、かなやんは嫌な笑みを浮かべてる。

「れ、練習してたら電話が、ね。」

しどろもどろになりながら、いいわけする。

「いいねぇ、若人は。よぉし、日野。今回は見逃してやる。その代わり…」

「な、なに?」

「今度面倒事があったら、お前さんに引き受けてもらう。」

「えぇ~!私、今年受験生なんですけど。」

「柚木も火原も、受験生だったがお前さんの手伝いしたろ~?」

「大人げないなぁ、かなやん。」

黙って見逃してくれればいいのに。

「ほら、いいから帰った帰った。」

「はぁい。」

帰りがけに、空を見上げる。

遠い遠い海の向こうの蓮君に、想いは届いた、よね。

初公開:2009年4月25日

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