わからずや(月森×日野)

それは、金曜日の放課後のことでした。

「なんで、ダメなの!?」

「ダメなものは、ダメだっ!」

ヴァイオリン・ロマンス再来!と歌われ、学校中で公認のカップル、月森蓮と日野香穂子。

いつもなら、二人で合奏したり練習したりと、放課後を過ごしているのだが…。

「理由は?!」

「常識範囲だっ。」

「なんで、恋人の家に行っちゃいけないの!?」

「別に、来るなとは言ってない。」

売り言葉に買い言葉。さっきから、ずぅっとこの調子だ。

「大体、どうして急にそんな話になるんだ?」

香穂子は、完全にフテくされている。

一方、呆れる反面、かなり困っている蓮は、とりあえず、放課後のコトを反芻してみることにした。

放課後、いつものように待ち合わせて、練習室へ行く。

そこまでは、いつも通りだった。なんら普段と変わりなく、平穏に過ごしていた。

「あ、そうだ。蓮君、今週末なんだけどさ。暇?」

「特に、予定はないが。」

「じゃあさ、泊まりに行っていい?」

「はぁ!?」

あぁ、そうだ、香穂子の一言から始まったんだ。と蓮は、思い返す。

大体、急に泊まると言い出すなんて、蓮には理解の「り」の字もない。

夏休みだから、などと言うならまだ、理解も及ぶのかもしれない。

でも、蓮にとって週末に香穂子が泊まりに来るとは、予想もしない。夢にも見ない。

蓮の理解力には、遠く及ばないらしい。

そのあと、香穂子はなんて言っただろうか?

「ね?いいでしょ!?」

「ダメだ。」

反射的に、そう答えた。いや、反射的というよりは、常識として断るだろう、と蓮は自分で納得する。

恋人が泊まりに来ると言って、あっさりOKを出すということ自体が、蓮には受けいれ難い。

蓮の悩みは、さておいて。

始めは、引き気味で控えめだった香穂子も、だんだんと激しく主張するようになり、 蓮は、それをあっさり切り捨ててしまう。

そして、先ほどの会話に戻ることになる。

「はぁ…。」

大きくため息をつく蓮に、香穂子は怒り冷めやらぬと言わんばかりに、言葉をぶつける。

「なんで、ため息つくのよ!」

「君が、突拍子もないこというからだっ!」

しばらく、お互い睨みあっていたが、その沈黙を1つの声が崩す。

「お前さんたち、なにやっとるんだ?」

「金澤先生…。」

「かなやんには、関係ないっ。」

「なんなんだ?おい、月森。これ、目通しとけ。」

「なんですか?」

怪訝そうな顔で、蓮は金澤からプリントを受け取る。

「ちなみに、お前さんに拒否権はない。」

「そうですか、わかりました。」

「で、お前さんたち。なにしてたんだ?取り込み中みたいだったが?」

「別にな…」

「蓮君が、わからずやなのっ!」

言いかけた蓮の言葉をさえぎって、香穂子がすかさず叫ぶ。

「わからずやは、どっちだっ。」

蓮もつい、言い返す。

「なんだ、痴話喧嘩か。」

「「違いますっ!」」

同時に否定する、二人。

かなやんはじめ、近くを通った誰もが、痴話喧嘩以外のなにものでもないだろう、と思ったとかそうじゃないとか。

「仲のいいこって。ほどほどにしとけよ~。」

飄々と去っていく、金澤。それを見届けて、香穂子はまだ尚、蓮につっかかる。

「ねぇ!なんで!?」

「何度、言わせる気だ?!ダメだ、と言ってるだろう。」

今回だけは、蓮も譲れないらしく。いつまでも、不毛な戦いを二人は続けるハメになり…。

「もう!蓮君のわからずや!もう、知らないっ!」

バタバタと、練習室を出て行く香穂子。

「おい!香穂!」

追いかけようと、外を見るものの、香穂子の姿はもうなくて。

「はぁ…。」

1つ、ため息。

「わからずやは、どっちだ。」

一人ぼやき、香穂子がいなくなったもの寂しさを少し感じながら、練習し始める。

「蓮君のバカ…。」

ポツリつぶやいた、香穂子。校舎裏に回って、さっき自分がいた練習室の窓の下に、身を隠している。

「誕生日…一番にお祝いしたいだけなのに…。」

電話でも、しようかな。と思いながら、勢いよく立ち上がる。

と同時に、勢いよく、窓のサンに頭をぶつけた…。

「いったぁ~っ。」

「香穂子?」

「う、わわわわ!蓮君!」

「こんなところに、いたのか。」

「……。」

「ぶつけたのか?大丈夫か?ケガは…。」

そっと、香穂子の頭に手をのせて、髪を梳きながら、蓮はそうたずねた。

「ん…。平気。」

「…ここから、入るか?」

「ううん。いい…。」

俯いたまま、香穂子は顔をあげない。

蓮は、香穂子の荷物を取り上げて、練習室の中に置いて、それから、香穂子を抱き上げて、練習室へ入れた。

「ちょっ!?蓮く…!」

そっと蓮は、手を離す。香穂子は、へなへなと座り込む。

「香穂…?」

「ビックリした。」

「あぁ、すまない。」

蓮は、壁に寄りかかるように座って、香穂子を引き寄せた。

「蓮君…?」

「どうして、あんなこと言い出したんだ。」

香穂子は、ぽてんと蓮の肩によりかかった。

「香穂?」

「日曜日…蓮君の誕生日だから。一番に、お祝いしたかったの。」

香穂子の言葉に驚いて、蓮は一瞬、言葉を失った。

「気持ちは嬉しいが、その、電話とかでもいいんじゃ…。」

「ちゃんと、顔みて言いたかったんだもん。」

香穂子は、蓮の胸に顔をうずめならが、ポツポツと答えた。

「顔を見れなくても、言葉だけで十分だから。」

蓮は、香穂子をなだめるように、優しくそういった。

「でも…」

「それに、別に今じゃなくても、チャンスはたくさんあるだろう?」

香穂子の言葉をさえぎって、蓮はそういった。

蓮の言葉に、ちょっと驚きながらも、香穂子はにっこり笑って答えた。

「うんっ。そうだね。…日曜日は、遊びに言ってもいい?」

「あぁ、かまわない。」

やっと、香穂子が笑顔を見せたことに、安心し、蓮も笑みを浮かべる。

「愛してる。香穂子。」

香穂子の額にそっとキスをする。

「うん。私も…。」

そっとキスを交わして…。

今年も来年も…この先ずっと、あなたの誕生日を祝いたい…。

初公開:2005年4月24日

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