恋とはどんなものかしら *Sample*

※冒頭6ページ公開中

はじめに

本作は、ご本人様に許可を頂きまして、ある楽曲をコンセプトとして作成させて頂きました。
そのある曲とは、シンガーソングライター・星羅さん「君はともだち」という楽曲です。とてもとても素敵な曲です。
詳しいことはあとがきにて語りたいと思いますが、まずは許可をくださいました星羅さんに、改めて心より御礼申し上げます。

二〇一五年四月某日            
蒼井 彩夏

***

恋するってどんな気持ちだろう。
幸せな気持ち?
ドキドキする気持ち?
一緒にいると楽しいと思う気持ち?
一緒にいるとホッとする気持ち?

恋するってどういうことだろう。
いつも相手を想うこと?
相手を手に入れたいと想うこと?
相手のことばかり考えて、何も手につかなくなること?
いつも相手が傍にいてくれること?

本物の恋とは、なんだろう。
今ここにある恋。あったかもしれない恋。これから発展するかもしれない恋。
どれが、本物の恋?

* * *

「ねぇ!どう思う!? 」
深夜。そろそろ電車の運行も終わろうかという時間帯。都会のいわゆる飲み屋街にある居酒屋で、だんっとジョッキを叩きつけるように机に置きながら、目の前にいる男に女が叫ぶ。
「どうと言われても。冬花、また彼氏と喧嘩した訳ね」
呆れたように笑いながら、男は手元のグラスに口をつける。冬花と呼ばれた女は、むすっとした顔でジョッキに残ったビールを一気に流し込む。
「桐人は飲まないの? 」
居酒屋へ入ってから今に至るまで、ウーロン茶しか飲まない目の前の男に冬花は不思議そうに尋ねる。
「オレ車だし。大体、オレが飲んだらお前帰れないだろ」
そう言いながら、桐人は机の上に置いたままの車のキーを指さす。
「別にタクシーで帰るのに」
「前、それでも帰れなかったの、どこの誰でしたっけ? 」
「う……店員さん!ビールおかわり! 」
小さくバツが悪そうな声をあげた冬花は、何のことかわからないと言わんばかりに、店員にビールを頼む。話を逸らそうとしたのを察してか、桐人が話を戻す。
「で、彼氏と電話する、しないで喧嘩した訳ね」
数分前、冬花が叫ぶ前にさんざん喚き散らした話をまとめると、そういうことだった。
「うん。確かにさ、毎日電話はうっとうしいと思うよ?向こうだって仕事忙しいって言ってたし。でもさ、何日かに一回くらいよくない!? 」
「難しい問題だな」
桐人はそう呟いて、いかにも考えてますと言わんばかりに、腕を組む。冬花はじっと桐人の答えを待ち、二人の間になんとも言えない沈黙がおりる。
桐人は、さてなんて返そうかと思案していた。正直言ってしまえば、電話の頻度が一日何回までなら大丈夫で、何回以降はダメかなんて人それぞれだと思う。電話の頻度だけじゃなく、LINEだってそうだ。毎日ひっきりなしに連絡を取る人もいれば、用事のあるときだけという人もいる。友人や同僚の間の話であれば、大した問題にはならないそれらの感覚の差も、こと恋愛のこととなると大きな問題となる、らしい。冬花の、毎日声が聞きたい、連絡が欲しいという気持ちもわからなくはないし、桐人もどちらかと言えばそういうタイプだ。が、昔から冬花の好きになる男は、どうもそういう感覚が冬花とは合わないらしい。
「彼氏はどれくらいがいいって言ってるんだっけ?」
ひとまず答えを出すのは止めて、相手の話を聞くことにする。冬花は、桐人が考え込んでいる内に運ばれてきたビールを一口飲むと、大きくため息をついた。
「自分が連絡しない限り連絡してくるなって」
がっくりと頭を垂れて呟いた冬花は、しまいには机につっぷしてしまった。
「お前には拷問だな」
桐人は呆れた笑いをこぼしそうになるのをこらえながら、いかにも深刻そうにつぶやく。三園冬花という女は、とても寂しがり屋なのだ。彼氏がいようといまいと、毎日のように自分にもLINEでメッセージを送ってくるし、ちょっとでも時間があるとご飯に行こうと言い出す。今日は無理だと言えば、じゃぁ電話しよう!と返してくるような女なのだ。これまでの彼氏との破局理由はすべて、こういう冬花のさびしがり屋なところが重たくなったこと。彼氏との喧嘩の理由も大体それだ。こうして、冬花に呼び出され彼氏の愚痴を聞かされるときも大体ネタは同じ。桐人にとっては、今日のこの状況も「いつものこと」で、毎度毎度よく飽きないなと思っているくらいだ。
机につっぷしていた冬花は顔だけあげると、桐人を見上げる。
「桐人はさぁ、私の呼び出しも全然平気じゃん?毎日LINE返してくれるじゃん?なのに、なんで私の彼氏は返してくれないの? 」
今にも泣きそうな顔で、冬花は言葉を並べる。桐人は困ったような呆れたような笑みを浮かべながら、冬花の問いに答える。
「そりゃあ、オレ達は付き合い長いし、そういう感覚似ているからじゃない? 」
「そういうもんかなぁ」
「そういうもんだよ」
「桐人は、本当にいつも付き合ってくれるよね」
のっそりと起き上がって、ビールをちびちびと飲みながらそう呟いた冬花に、桐人はあいまいな笑いをこぼす。
「ま、腐れ縁てやつかな」
「それあんまりいい意味じゃないよね」
「ははは」
笑ってごまかすとは、こういうことだろうかなんて思いながら、桐人はグラスに入ったウーロン茶を飲み干す。